時間指定といつものところで、との当日の簡素なメールに、どれだけ仕事が忙しいのかが伝わってきた。
私までもが疲れる要素になってはいけないと、いっそ断ったほうがお互いのためかとも迷ったが、それだとまるで京王プラザなりヒルトンなりの部屋が取れなかったことの報復ととられてしまうと困るので、相手の指示に従うのがいちばんだろうと判断する。
ヨーロッパへの出張前ということを踏まえ、典型的な日本食が出てくる店を予約済みで、いつもの待ち合わせ場所、モアーズ前到着。
なぜか彼は、背後にこっそり立ってたり銅像の陰から覗いてるふりをしてくるのが好きなので、こっちが盛大に驚いてやらないとならないめんどくさいタイプだと最近気付いた。
そんなのっけからサプライズ求めてるわけ?
と、やや呆れつつも、ちゃんと私はあなたのことを見つけたよと特別なスマイルで合図してあいさつを交わすと、おもむろに彼はシェラトンの最上階あたりを指差してくる。
「あそこでなにか豪華なものを食べよう」
これには素で驚く!
あー、一応、お店は予約してあるけど…モゴモゴ。
とりあえず見に行こうと言われて行ってみたが、中華のオーダーバイキング、スイーツの食べ放題、和洋中なんでもありのバイキング、それしかなさそうだったので予約してあるところに行こうかと言ってもらえてホッとした。
でも、ふつうの居酒屋に予約しちゃったよ! とシェラトンとの格差に少し焦り出す。
そこは自信があるの?
と、アバウトに聞かれて曖昧な返事しかできなく、店を探しているふり。
口コミ頼りで実際に行ったことがない店だったから、エレベーターが運んでくれた空間に足を踏み入れたときの安堵感はたまらないものがあった。
平気と思えるものが確実にあったんだよね、それがなにかわからないけど。
彼が「うん」と案内された席で店内を見渡して頷いてくれたので、ひとまず合格。
さっきもシェラトンでなにかコースでも頼もうとつぶやいてたから、早速お店の人にコースを頼もうとしてて、また私は焦ってくる。
ホテルのコースと居酒屋のコースを同等に考えちゃいけないので、やんわりとお店の人が「コースは前日までの予約が必要となります、本日のお勧めはこちらのメニューですよ」とさらっと促してくれて、その見事なフォローに感謝した。あんた、良い店員さんね!
「そんなにコースにこだわるのはなにか理由でもあるの?」
と、飲み物をとりあえず頼んだ後にどうしても聞きたくなってしまう。
「ほらね、今日、ホテルが取れなかったから」
と、申し訳なさそうに言われて、じゃあ京王プラザの部屋が空いてたら京王プラザでフルコースでも食べる予定だったのかと。
うわお。部屋が空いてなくて助かった。
お育ちの良いヨーロッパ人と一流ホテルでフルコースなんて絶対に無理!
「しばらく日本っぽいものが食べられないからと思って、あえてお刺身だとか天ぷらだとかにしたんだけど」
メニューを見ながら自己フォローも入れとく。
「おお! ○○ちゃん、優しいね」
おい、ここで和食の意図に初めて気付くんか。
お刺身をつまみながら、昨日に行ったというネットワークエンジニアの集まりについての彼の話に聞き入る。
なぜか知らないがそれは国際的な集まりらしかった。…日本で?
「フィンランド人はオタク。たぶん、言わなかったけど日本のアニメとか好き。クスクス笑いながらしゃべる。変」
そういうフィンランド人、ガチでテレビで観た。日本語ペラペラでコスプレ大好き、みたいな。だいぶ昔のことだし、まんま本人じゃないだろうなぁ。世界が狭いと感じることけっこうある。
「でね、おもしろかった話。ナイジェリア人とある共通点があって、近づいて行って話しかけたけど彼は気が付かない。彼は黒人、体格も違う。で、スーツがちょっと青い生地でめずらしかった。青山? って聞いたら、彼も青山で買っていた。2人で同じスーツだった」
さすがにお茶を鼻から吹き出しそうになったわ。
ええー、いつもスーツがオシャレだと思っていたけど、青山で買ってたの?
フランスでこだわって仕立てきてると思ってたよ。
あー、通りで私服がUNIQLOなわけだ。
「ドイツ人がいた。わざとドイツ語で話しかけた。笑いが取れるからね」
ドイツにぷらっと旅できるくらい不自由ないくせに、笑いを狙うって敷居が低いところがいいね。
「そもそも」と、私は大前提を聞く。「みんなが外国人なら、とりあえず片言な日本語であいさつするの? それとも英語なの?」
もう、それが疑問でしょうがなくて。
「まあ、日本語かな」
「でも、みんな英語のほうが実はしゃべれるんじゃないの?」
技術的なことって日本語でやりとりするよりは英語のほうが手っ取り早いと思うんだけど…。
ふふふ、と笑われてしまった。
英語は当たり前すぎるから、あえて日本語なんだと。そこからお互いのことを探るからいいんだと。
…めんどくさい集まり。
「でも、ナイジェリア人は日本に17年、フィンランド人は学生の頃から日本の文化を専攻してて、ドイツ人、チェコスロバキア人、あとアメリカ人がいちばん多かったかな。みんな日本語うまい」
しょんぼりしてフェードアウトさすからさー。
「あなただって日本語、相当うまいよ! だってまだ4年でしょ? それなのにメールだって日本語で問題なく書けるんだから!」
一所懸命に励ますしかないっしょ。
彼の笑顔が戻って来たが、やや頭の中では明日のことやこれから荷物を作ることでいっぱいみたいで、たまに飛んでる。しかも、ふと気付いた瞬間、超ナーバスな表情!
今日はダメだなと、諦める。
彼は次第に、具体的な悩みを打ち明けてきた。
実は同僚と一緒にスイスへ行かないとならなくて、その同僚が45歳なのにしっかりしてなくて…と愚痴り出すので、うんうんと聞いてるしかない。
そりゃね、34で有名企業の部長職でなんヶ国語もペラペラの自分と比べちゃいけないところだよ、とは言わないでおく。
ふだんとことん明るい人の裏面って、本当に濃いねぇ。その振れ幅がハンパない。
私の前では作らなくていいのに、いつでもなんでもがんばる人なんだよね。偉い。
でも、お荷物な同僚は本当にどうしようもなかったや。
飛行機そのものが怖くてしかたないとか、お米しか食べたくないと言い張ってたり、フランスの企業に勤めてるのになんなのって感じ。
ため息の共有も、たまにはいいかな。
なんか最近、苦楽を共にしだしたわよね、私たち。
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私までもが疲れる要素になってはいけないと、いっそ断ったほうがお互いのためかとも迷ったが、それだとまるで京王プラザなりヒルトンなりの部屋が取れなかったことの報復ととられてしまうと困るので、相手の指示に従うのがいちばんだろうと判断する。
ヨーロッパへの出張前ということを踏まえ、典型的な日本食が出てくる店を予約済みで、いつもの待ち合わせ場所、モアーズ前到着。
なぜか彼は、背後にこっそり立ってたり銅像の陰から覗いてるふりをしてくるのが好きなので、こっちが盛大に驚いてやらないとならないめんどくさいタイプだと最近気付いた。
そんなのっけからサプライズ求めてるわけ?
と、やや呆れつつも、ちゃんと私はあなたのことを見つけたよと特別なスマイルで合図してあいさつを交わすと、おもむろに彼はシェラトンの最上階あたりを指差してくる。
「あそこでなにか豪華なものを食べよう」
これには素で驚く!
あー、一応、お店は予約してあるけど…モゴモゴ。
とりあえず見に行こうと言われて行ってみたが、中華のオーダーバイキング、スイーツの食べ放題、和洋中なんでもありのバイキング、それしかなさそうだったので予約してあるところに行こうかと言ってもらえてホッとした。
でも、ふつうの居酒屋に予約しちゃったよ! とシェラトンとの格差に少し焦り出す。
そこは自信があるの?
と、アバウトに聞かれて曖昧な返事しかできなく、店を探しているふり。
口コミ頼りで実際に行ったことがない店だったから、エレベーターが運んでくれた空間に足を踏み入れたときの安堵感はたまらないものがあった。
平気と思えるものが確実にあったんだよね、それがなにかわからないけど。
彼が「うん」と案内された席で店内を見渡して頷いてくれたので、ひとまず合格。
さっきもシェラトンでなにかコースでも頼もうとつぶやいてたから、早速お店の人にコースを頼もうとしてて、また私は焦ってくる。
ホテルのコースと居酒屋のコースを同等に考えちゃいけないので、やんわりとお店の人が「コースは前日までの予約が必要となります、本日のお勧めはこちらのメニューですよ」とさらっと促してくれて、その見事なフォローに感謝した。あんた、良い店員さんね!
「そんなにコースにこだわるのはなにか理由でもあるの?」
と、飲み物をとりあえず頼んだ後にどうしても聞きたくなってしまう。
「ほらね、今日、ホテルが取れなかったから」
と、申し訳なさそうに言われて、じゃあ京王プラザの部屋が空いてたら京王プラザでフルコースでも食べる予定だったのかと。
うわお。部屋が空いてなくて助かった。
お育ちの良いヨーロッパ人と一流ホテルでフルコースなんて絶対に無理!
「しばらく日本っぽいものが食べられないからと思って、あえてお刺身だとか天ぷらだとかにしたんだけど」
メニューを見ながら自己フォローも入れとく。
「おお! ○○ちゃん、優しいね」
おい、ここで和食の意図に初めて気付くんか。
お刺身をつまみながら、昨日に行ったというネットワークエンジニアの集まりについての彼の話に聞き入る。
なぜか知らないがそれは国際的な集まりらしかった。…日本で?
「フィンランド人はオタク。たぶん、言わなかったけど日本のアニメとか好き。クスクス笑いながらしゃべる。変」
そういうフィンランド人、ガチでテレビで観た。日本語ペラペラでコスプレ大好き、みたいな。だいぶ昔のことだし、まんま本人じゃないだろうなぁ。世界が狭いと感じることけっこうある。
「でね、おもしろかった話。ナイジェリア人とある共通点があって、近づいて行って話しかけたけど彼は気が付かない。彼は黒人、体格も違う。で、スーツがちょっと青い生地でめずらしかった。青山? って聞いたら、彼も青山で買っていた。2人で同じスーツだった」
さすがにお茶を鼻から吹き出しそうになったわ。
ええー、いつもスーツがオシャレだと思っていたけど、青山で買ってたの?
フランスでこだわって仕立てきてると思ってたよ。
あー、通りで私服がUNIQLOなわけだ。
「ドイツ人がいた。わざとドイツ語で話しかけた。笑いが取れるからね」
ドイツにぷらっと旅できるくらい不自由ないくせに、笑いを狙うって敷居が低いところがいいね。
「そもそも」と、私は大前提を聞く。「みんなが外国人なら、とりあえず片言な日本語であいさつするの? それとも英語なの?」
もう、それが疑問でしょうがなくて。
「まあ、日本語かな」
「でも、みんな英語のほうが実はしゃべれるんじゃないの?」
技術的なことって日本語でやりとりするよりは英語のほうが手っ取り早いと思うんだけど…。
ふふふ、と笑われてしまった。
英語は当たり前すぎるから、あえて日本語なんだと。そこからお互いのことを探るからいいんだと。
…めんどくさい集まり。
「でも、ナイジェリア人は日本に17年、フィンランド人は学生の頃から日本の文化を専攻してて、ドイツ人、チェコスロバキア人、あとアメリカ人がいちばん多かったかな。みんな日本語うまい」
しょんぼりしてフェードアウトさすからさー。
「あなただって日本語、相当うまいよ! だってまだ4年でしょ? それなのにメールだって日本語で問題なく書けるんだから!」
一所懸命に励ますしかないっしょ。
彼の笑顔が戻って来たが、やや頭の中では明日のことやこれから荷物を作ることでいっぱいみたいで、たまに飛んでる。しかも、ふと気付いた瞬間、超ナーバスな表情!
今日はダメだなと、諦める。
彼は次第に、具体的な悩みを打ち明けてきた。
実は同僚と一緒にスイスへ行かないとならなくて、その同僚が45歳なのにしっかりしてなくて…と愚痴り出すので、うんうんと聞いてるしかない。
そりゃね、34で有名企業の部長職でなんヶ国語もペラペラの自分と比べちゃいけないところだよ、とは言わないでおく。
ふだんとことん明るい人の裏面って、本当に濃いねぇ。その振れ幅がハンパない。
私の前では作らなくていいのに、いつでもなんでもがんばる人なんだよね。偉い。
でも、お荷物な同僚は本当にどうしようもなかったや。
飛行機そのものが怖くてしかたないとか、お米しか食べたくないと言い張ってたり、フランスの企業に勤めてるのになんなのって感じ。
ため息の共有も、たまにはいいかな。
なんか最近、苦楽を共にしだしたわよね、私たち。
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