翌日、すぐに僕は退院できた。退院と言ってもデイケアに通う病院へ入院していただけだった。
 ますますお腹が大きくなったように見えるエミコ叔母さんが、僕の部屋で僕のベッドに腰掛けている。僕も少し離れて同じベッドの上に座ってた。
「で、自殺とかじゃないんでしょう?」
 誰かにやっと率直に聞かれた。すっきりする。
「事故だよ。危ないところに登った僕のミスだけど」
「そんな危ない建物残してて、あの病院、おかしいわよ。抗議しようかしら」
「死ねる高さじゃないから、ロープとか張っておしまいじゃない?」
少なくとも、僕はあの高さで助かった。もっと低くても高くてもダメで、飛び降りることが必要だった。
「急に変わったね、ライトくん。うちのショウタも飛び降りたら正気になる?」
 笑いながらもエミコ叔母さんはポイントを突いていた。
「僕なんかに比べたらショウタくんなんて正気だよ。だって僕の趣味ってマンホールを写真に収めることだよ、雨の日も桜散る日も。おかしいよね」
 僕は机の上のデジカメを指さした。認めたからもう笑える。
「あそこの病院、本当に評判いいんだけど、ライトくんも見ちがえるようによくなって本当に嬉しいわ」
「エミコ叔母さんが嬉しいと、僕も嬉しいよ」
「そう。よかった。私たちは仲間よ。家族よ。安心してね」
 叔母さんは急に真剣な顔になって僕の手を握った。なにかあると思った。これはなにかの前置きだ。
「出てくるの、叔父さんが。──わかるよね、言うこと?」
「!」
 僕は理解したとたん、手を振り払って飛び上がった。そして部屋をうろうろし出す。
「たった六年しか経ってないじゃないか! 嘘だろ! 人を殺しておいて!」
 怒りは抑えられなかった。許すと言ったライカがいても、僕が許せない。
 ライカは死んじゃったけど、さんざんな人生にされた僕がここにいるっていうのに。
「仮出所よ。模範囚なんですって。刑務所もいっぱいいっぱいらしいの」
 なるほど、叔父もポイントをためにためまくったわけだ。
 エミコ叔母さんのわびるような目を見て、我を忘れて大きな声を出したことを恥じる。
「決定なんだね?」
 僕は確かめるように聞いた。
「決定よ」
「いつ?」
「一週間後」
 僕にはきっと内緒にされていたんだろう、そんな短時間で決まることとは思えなかった。
 たとえ内緒にされていたんだとしても、一週間ある。僕にはまだポイントをためる猶予があるということだ。いいだろう、考える時間もある。
 僕は落ち着きを取り戻し、大きく息を吐いた。
「大丈夫?」
 エミコ叔母さんは心配そうに僕の顔をのぞく。
「ああ。でも、僕、エミコ叔母さんに好かれたくて嘘ついたんだ。姉の名前は使わない方がいいよ、母が混乱するから。ごめん、これが本心なんだ」
「うん、夫とも話し合って、ライカちゃんのライカはそのままにしておくほうがいいって結論に達したところ。ありがとう、本当のこと言ってくれて」
「あの時はあの時で本当だったんだけどね。動機が不純だった」
「私がライトくんを嫌うもんですか。たとえなにをしたとしてもよ」
「叔父を殺す計画をこれから立てるんだとしても?」その質問は心の中にだけとどめておいた。