結局、言えなかった。エミコ叔母さんがショウタくんにプレッシャーをかけているからクラスメイトに力を誇示しただけなんだよ、なんて素人判断。
親戚が消えると、どこかで見張っていたようにすれ違いで母が家に入ってきて、彼らのいた痕跡を消しにかかる。父はまたレンズ磨きを初めてしまった。
僕は自分の部屋へ閉じこもり、ベッドを背中にくっつけて床に体育座りで考えにふける。目をつむると、姉は生き返った。刑務所にいる叔父も戻ってきた。そも そも最初は誘拐ではなかった。共働きの家庭で、子どもを遅くまで見ていてくれる人が欲しいというとき、叔父は工場の夜勤シフトをしていたので快く自らその 役をかって出た。最初はこの家で。そのうちあちこち車で連れて行ってくれるようになり、それが楽しいと思えたのが境に、家へ帰してもらえなくなった。学校 は通わなくていい、毎日遊んで暮らしていいと叔父は嘘を吐き、車でほぼ毎晩違う場所で泊まる生活が始まった。父と母はなにかが怖かったのだろう、血縁者の ことで内輪にしておきたいと思ったのか、警察に相談しなかったらしい。したとしても、最後のほうになってからだろう。
叔父は、おそらく最後の一ヶ月ほど、山奥にある廃屋に隠れた。僕と姉はカビくさい観音開きの洋服ダンスに詰め込まれ、そこから出るのを禁止された。鍵はか けられてなかったから、動くたびにまちがえて開けてしまわないよう、僕はびくびくしていた。開けたことがばれると叔父は怒り狂って暴力を加えるからだ。叔 父は常に酒に酔っていた。自分がなにをしているかの自覚があったのかも疑わしい。
タンスの暗闇の中で、ひょろりと育ちの良い身体を持った姉はとても窮屈そうで、当時とても身体の小さかった僕は、少しでも姉に場所をあげられるようきつく自分の身体に腕を回していた。
一日に一回、ハンバーガーやコンビニで買ってきたおむすびなどが与えられた。それだけが楽しみで生きていたようなもんで。でも小さなバケツをタンスの中に 置かれ、それに排泄物を入れるよう指示されたとき、姉はそんなことはできないと今までの不条理な態度に腹を立てまくった。
暗闇のタンスの中、姉がやめてとなん度も言うのを聞いた。最初は怒った口調で。そのうち懇願するように、すすり泣いて。僕は姉がなにをされたのかわからな かったけれど、怖くて怖くてタンスの奥で耳を塞いでいるしかできなかったのを覚えている。泣きやんだ姉がタンスに詰め込まれると、彼女がもう彼女でなく なっていることがなぜか伝わった。
横になって眠りたかった。身体の節々が痛くてたまらなかったし、使うしかないバケツのせいでタンスの中はものすごい悪臭だった、風呂にも入れてもらえなかった。
タンスのドアが開き、光が差し込むときは恐怖の最高潮だった。たいてい嫌がる姉が連れて行かれた。日付がわからなかった。昼夜の感覚は遠のき、意識を正気に保っているのは、空腹や色々な悪条件の中でむずかしかった。
「夕飯よ」
という声がしてきて、今日の回想はそこまでになる、
食欲なんてなかったけど、食べないで心配されるより気持ち悪くなっても食べたほうがいい。僕は素直にダイニングへ向かった。
親戚が消えると、どこかで見張っていたようにすれ違いで母が家に入ってきて、彼らのいた痕跡を消しにかかる。父はまたレンズ磨きを初めてしまった。
僕は自分の部屋へ閉じこもり、ベッドを背中にくっつけて床に体育座りで考えにふける。目をつむると、姉は生き返った。刑務所にいる叔父も戻ってきた。そも そも最初は誘拐ではなかった。共働きの家庭で、子どもを遅くまで見ていてくれる人が欲しいというとき、叔父は工場の夜勤シフトをしていたので快く自らその 役をかって出た。最初はこの家で。そのうちあちこち車で連れて行ってくれるようになり、それが楽しいと思えたのが境に、家へ帰してもらえなくなった。学校 は通わなくていい、毎日遊んで暮らしていいと叔父は嘘を吐き、車でほぼ毎晩違う場所で泊まる生活が始まった。父と母はなにかが怖かったのだろう、血縁者の ことで内輪にしておきたいと思ったのか、警察に相談しなかったらしい。したとしても、最後のほうになってからだろう。
叔父は、おそらく最後の一ヶ月ほど、山奥にある廃屋に隠れた。僕と姉はカビくさい観音開きの洋服ダンスに詰め込まれ、そこから出るのを禁止された。鍵はか けられてなかったから、動くたびにまちがえて開けてしまわないよう、僕はびくびくしていた。開けたことがばれると叔父は怒り狂って暴力を加えるからだ。叔 父は常に酒に酔っていた。自分がなにをしているかの自覚があったのかも疑わしい。
タンスの暗闇の中で、ひょろりと育ちの良い身体を持った姉はとても窮屈そうで、当時とても身体の小さかった僕は、少しでも姉に場所をあげられるようきつく自分の身体に腕を回していた。
一日に一回、ハンバーガーやコンビニで買ってきたおむすびなどが与えられた。それだけが楽しみで生きていたようなもんで。でも小さなバケツをタンスの中に 置かれ、それに排泄物を入れるよう指示されたとき、姉はそんなことはできないと今までの不条理な態度に腹を立てまくった。
暗闇のタンスの中、姉がやめてとなん度も言うのを聞いた。最初は怒った口調で。そのうち懇願するように、すすり泣いて。僕は姉がなにをされたのかわからな かったけれど、怖くて怖くてタンスの奥で耳を塞いでいるしかできなかったのを覚えている。泣きやんだ姉がタンスに詰め込まれると、彼女がもう彼女でなく なっていることがなぜか伝わった。
横になって眠りたかった。身体の節々が痛くてたまらなかったし、使うしかないバケツのせいでタンスの中はものすごい悪臭だった、風呂にも入れてもらえなかった。
タンスのドアが開き、光が差し込むときは恐怖の最高潮だった。たいてい嫌がる姉が連れて行かれた。日付がわからなかった。昼夜の感覚は遠のき、意識を正気に保っているのは、空腹や色々な悪条件の中でむずかしかった。
「夕飯よ」
という声がしてきて、今日の回想はそこまでになる、
食欲なんてなかったけど、食べないで心配されるより気持ち悪くなっても食べたほうがいい。僕は素直にダイニングへ向かった。