今日は土曜日だったけど、学校へ行きたかった。残されたホームで効率的にポイントを稼ぎたかった。でも、そんな用で門をくぐっていいのかわからず、僕は
学校へ向かうのは断念した。とりあえず家にいるのが嫌だったので、昼間でだらだら眠っていた後に、駅前の大きな本屋へ立ち読みしに行くことに決めた。その
道中、マンホールは七つしかない。距離に対して絶対的に少ない。道を歩いててマンホールの数が少ないからって腹を立てるほど不条理なことがあるだろうか。
僕は無表情の下に感情を隠した。
本屋へ入る。大型チェーンのここは、立ち読み客に寛容だった。店員の無関心さが好きで、僕は昔からここで良く時間をつぶしていた。
科学雑誌のコーナーで足を止め、最新号を読みふける。宇宙とか生物、自然科学に興味があった。それらは僕というサイズを忘れさせてくれるから。だからと いって僕は、今の自分に満足してないわけじゃない。見かけはどこをとっても平均的だし、なんの興味もわかない学問でも頭に詰め込めるだけのキャパシティも 持ち合わせてる。隣近所に聞けば、とても仲の良いと答えるはずの一般市民である他人に害のない家族。新しく引っ越してきた人たちはかつて僕の一家がニュー スになったことすら知らないだろう。たとえ知られても、たえず作り笑いと挨拶を欠かさない僕に向けられるのは、良くって同情のまなざしだ。あの一件で、友 達だと思って鼻を垂らしていた仲間は僕を避けるようになった。他人のよそよそしい好奇心の視線は慣れている。根掘り葉掘り聞かれるくらいなら、孤独という 静けさのほうが良かった。
不意に読みふけっていた雑誌を奪われる。反射的に怒られるのかと身構えたが、とっさにやった視線の高さよりだいぶ低いところに茶色い瞳があった。わけが わからない。相手は見たことも学校の制服姿で、僕をにやにや見つめながらさっきまで僕が読んでいた雑誌を無造作に色々な雑誌が並べてある棚の上に放った。
「新入生くん」
この声には聞き覚えがある。それに、制服は違っても、デジカメが首から下がってる。
店員に立ち読みを咎められたんじゃないと判明して、余計にものごとがわからなっていく。
「ついてきて」
彼女は僕の腕を掴み、新刊のコミック本があるコーナーへ真っ直ぐ向かった。そこで、振り払おうと思えばできなくもなかった腕を解放される。
さして選んだ感じでなく、彼女は一冊を棚から抜いた。その目はマンガを見てなかった。僕を見てた。そして次の瞬間、彼女はセーラー服の下にマンガ本をす り込ませた。あたりにはなん人かがうろうろしたり立ち読みしたりしていだけど、誰も彼女のこの行動に気付いた感じはなかった、あまりにもあっという間過ぎ た。
「行こ」
彼女はカバンを持つ手で上手いこと服の下の本を支えていて、出口に向かって歩いていってもなんの違和感もない。僕はつられて店を出てしまったけど、太陽にあたった瞬間、それがどんなに悪いことか初めて気付いたように鼓動が速くなり、嫌な汗が噴き出した。
本屋から少し離れたところで彼女は笑い声を上げる。
「これ、集めてる?」
服の下から堂々と犯罪の証を取りだし、彼女は僕にそれを見せつけた。タイトルとか、そんなことはどうでもよかった。僕は慌てて首を横に振った。
「じゃ、いらないね」
そういって彼女は自動販売機の横にあったゴミ箱へそのコミックを放り投げる。
なにごともなかったかのようにすたすたと進む彼女の後を追っていたのは、ただ、心が動かなかったからで、そして立ち止まって共犯者だと知られるのが怖かったからだ。
公園のベンチに彼女は座った。どうしていいかわからず、ぼくはじゅうぶんな距離を空けて横へ座る。
「一瞬だけ、すごい勝ったって思える」彼女はさっきまで楽しそうにしていたのに、今はもうどこか悲しそうだった。「誰にも知られず上手くやったって高揚感。長続きしないねー」
だからって僕を巻き込んだのか? 今後もこんな悪い遊びに付き合わせるつもりだろうか。
彼女はふいに立ち上がり、僕の目の前に立って自分を指さした。
「某有名女子中学の制服。これから渋谷か新宿出るし。私、中二で通してる。みんな騙されてくれるわよ。ま、はやんないけどね、援助交際なんて。でも需要と供給はあるの、確実に」
僕はぽかんと口をあけることしかできない。
「ああ、こんな学校通ってなかったよ。オークションで買ったの。この制服が私の値段を高めてくれるなら安い買い物だったと思うけど。見る? 私、自分のサイト持ってるんだ」
彼女は太ももをくっつけて僕の横へ座り、そんなこと全く気にかけてない様子でパカリと開けたケータイの画面を傾けて見せてくる。その角度が下手くそで、 見たいのか見たくないのかもわからない画面は太陽の下でほとんど判別ができない。おそらく彼女の写真らしきもの、ちかちかと点滅する記号たち。色とりどり のテキスト。それらがスクロールされていった。
「ここから下は日記」びっしり書き込まれたテキストだけの画面になると、彼女はそれをつまらないものとでも言いたげにケータイを閉じてしまう。「私を買っ た男のこと評価つけてあげんの。大人ってホントはテストとかなくなっちゃうと不安になるんじゃない? 点数制に慣らされちゃってるんだよ、きっと。細分化 された分析欲しさにお金を払う。でも高得点がお望みってわけでもないみたい。嘘じゃ満足できないくせに、高い評価や期待を欲しがる。それで、毒舌なくらい じゃないとホントだと思われない。大人ってホントわがまま」
一方的な態度の自分のことをわがままだとは思わないんだろうか。僕はやはり今日もかけるべき言葉が見あたらない。そもそも彼女が僕との会話を望んでいるのかすら疑問で。
「そろそろ行こっかな。んじゃね」
紺色のハイソックスの先のローファーが元気よく地面にたたきつけられ、乾いた土埃が舞ったのを僕は見ていた。その間に彼女の姿はなくなっていた。
本屋へ入る。大型チェーンのここは、立ち読み客に寛容だった。店員の無関心さが好きで、僕は昔からここで良く時間をつぶしていた。
科学雑誌のコーナーで足を止め、最新号を読みふける。宇宙とか生物、自然科学に興味があった。それらは僕というサイズを忘れさせてくれるから。だからと いって僕は、今の自分に満足してないわけじゃない。見かけはどこをとっても平均的だし、なんの興味もわかない学問でも頭に詰め込めるだけのキャパシティも 持ち合わせてる。隣近所に聞けば、とても仲の良いと答えるはずの一般市民である他人に害のない家族。新しく引っ越してきた人たちはかつて僕の一家がニュー スになったことすら知らないだろう。たとえ知られても、たえず作り笑いと挨拶を欠かさない僕に向けられるのは、良くって同情のまなざしだ。あの一件で、友 達だと思って鼻を垂らしていた仲間は僕を避けるようになった。他人のよそよそしい好奇心の視線は慣れている。根掘り葉掘り聞かれるくらいなら、孤独という 静けさのほうが良かった。
不意に読みふけっていた雑誌を奪われる。反射的に怒られるのかと身構えたが、とっさにやった視線の高さよりだいぶ低いところに茶色い瞳があった。わけが わからない。相手は見たことも学校の制服姿で、僕をにやにや見つめながらさっきまで僕が読んでいた雑誌を無造作に色々な雑誌が並べてある棚の上に放った。
「新入生くん」
この声には聞き覚えがある。それに、制服は違っても、デジカメが首から下がってる。
店員に立ち読みを咎められたんじゃないと判明して、余計にものごとがわからなっていく。
「ついてきて」
彼女は僕の腕を掴み、新刊のコミック本があるコーナーへ真っ直ぐ向かった。そこで、振り払おうと思えばできなくもなかった腕を解放される。
さして選んだ感じでなく、彼女は一冊を棚から抜いた。その目はマンガを見てなかった。僕を見てた。そして次の瞬間、彼女はセーラー服の下にマンガ本をす り込ませた。あたりにはなん人かがうろうろしたり立ち読みしたりしていだけど、誰も彼女のこの行動に気付いた感じはなかった、あまりにもあっという間過ぎ た。
「行こ」
彼女はカバンを持つ手で上手いこと服の下の本を支えていて、出口に向かって歩いていってもなんの違和感もない。僕はつられて店を出てしまったけど、太陽にあたった瞬間、それがどんなに悪いことか初めて気付いたように鼓動が速くなり、嫌な汗が噴き出した。
本屋から少し離れたところで彼女は笑い声を上げる。
「これ、集めてる?」
服の下から堂々と犯罪の証を取りだし、彼女は僕にそれを見せつけた。タイトルとか、そんなことはどうでもよかった。僕は慌てて首を横に振った。
「じゃ、いらないね」
そういって彼女は自動販売機の横にあったゴミ箱へそのコミックを放り投げる。
なにごともなかったかのようにすたすたと進む彼女の後を追っていたのは、ただ、心が動かなかったからで、そして立ち止まって共犯者だと知られるのが怖かったからだ。
公園のベンチに彼女は座った。どうしていいかわからず、ぼくはじゅうぶんな距離を空けて横へ座る。
「一瞬だけ、すごい勝ったって思える」彼女はさっきまで楽しそうにしていたのに、今はもうどこか悲しそうだった。「誰にも知られず上手くやったって高揚感。長続きしないねー」
だからって僕を巻き込んだのか? 今後もこんな悪い遊びに付き合わせるつもりだろうか。
彼女はふいに立ち上がり、僕の目の前に立って自分を指さした。
「某有名女子中学の制服。これから渋谷か新宿出るし。私、中二で通してる。みんな騙されてくれるわよ。ま、はやんないけどね、援助交際なんて。でも需要と供給はあるの、確実に」
僕はぽかんと口をあけることしかできない。
「ああ、こんな学校通ってなかったよ。オークションで買ったの。この制服が私の値段を高めてくれるなら安い買い物だったと思うけど。見る? 私、自分のサイト持ってるんだ」
彼女は太ももをくっつけて僕の横へ座り、そんなこと全く気にかけてない様子でパカリと開けたケータイの画面を傾けて見せてくる。その角度が下手くそで、 見たいのか見たくないのかもわからない画面は太陽の下でほとんど判別ができない。おそらく彼女の写真らしきもの、ちかちかと点滅する記号たち。色とりどり のテキスト。それらがスクロールされていった。
「ここから下は日記」びっしり書き込まれたテキストだけの画面になると、彼女はそれをつまらないものとでも言いたげにケータイを閉じてしまう。「私を買っ た男のこと評価つけてあげんの。大人ってホントはテストとかなくなっちゃうと不安になるんじゃない? 点数制に慣らされちゃってるんだよ、きっと。細分化 された分析欲しさにお金を払う。でも高得点がお望みってわけでもないみたい。嘘じゃ満足できないくせに、高い評価や期待を欲しがる。それで、毒舌なくらい じゃないとホントだと思われない。大人ってホントわがまま」
一方的な態度の自分のことをわがままだとは思わないんだろうか。僕はやはり今日もかけるべき言葉が見あたらない。そもそも彼女が僕との会話を望んでいるのかすら疑問で。
「そろそろ行こっかな。んじゃね」
紺色のハイソックスの先のローファーが元気よく地面にたたきつけられ、乾いた土埃が舞ったのを僕は見ていた。その間に彼女の姿はなくなっていた。