校長との面談は、僕の見る目を変えさせた。正しくは、僕のマンホールを見る目を変えさせてくれた。今後、マンホールは僕のポイントとなるだろう。僕はポ
イントをためる。なんだか、少しわくわくできる。夢なんて叶うわけがないとわかってても、少しの楽しみを持つのは自分に許されることだろう。学校が僕に期
待するなら、僕はそれを適えなければ。
校長室にいたほんの一五分くらいで、校内は静まりかえっていた。部活動が全く盛んでないこの学校の生徒は、みんなまっすぐ帰路に着くようインプットされているらしい。
時間を確認した僕は、暗記してる電車の発車時刻までたっぷり三十分近くあることを知る。二日続けて墓地へ行こうとは思わなかった。そこで、校内を探索しにかかることにした。
この学校には気になる場所があった。昔に貨物路線が通っていた跡地があり、長いホームがそのまま残されているのだ。グラウンドの向こうの藪を抜けると、 ぽっかりと灰色のコンクリートの塊が姿を現した。線路は撤去されていて本当にホームしかなかったが、その片方の端に、上へと伸びる階段がくっついていた。 そして上へ伸びていって、九十度回転したところでぷつりと階段は途切れていた。どこへも続かない階段、かつてはなにかの建物だったのか、そんな想像をふく らませるのには役に立った。
僕はホームへよじ登り、端から端まで歩く。驚くことにこのホームにはマンホールが五つもあった。嬉しくて一つ一つ数えながら、往復した。一つ踏むごとに一ポイントたまっていく感覚が嬉しくて、それが心を豊かに実らせてくれることが、僕を夢中にさせた。
カシャリ。
はっと我に返る。これはデジャヴじゃない。現実だ。
振り返ると、どこにも続かないはずの空で途切れてる階段に昨日の女生徒が立っていた。
なぜ僕の邪魔をするんだ。そしてまた彼女は僕を撮っている。
この憤りをどうしたらいいかわからないまま突っ立ってると、焦る様子もなく彼女が一歩一歩階段を降りてきて、僕の前にまで来た。そしておもむろにカメラを前に突き出し、シャッターを切った。
僕の目はなぜかカメラを見てなかった。カメラを構えてるほうの手首に、痛々しい傷跡を数ヶ所見つけてた。リストカット。
「ポイントためてたんでしょ?」
いきなりの図星に、僕はそれほど我を忘れて夢中になっていたのかと恥ずかしくてたまらなくなる。でも次の瞬間、ポイント制度のことを理解してる彼女のこ とが不思議でたまらなくなり、彼女のことを穴の開くほど見つめてしまう。肩にかかるかかからないかくらいの、こっそりばれない程度に脱色している髪。茶色 い瞳。うぶ毛までうっすら見えそうな白い肌。頬はきれいなピンク色だ。僕よりだいぶ背が低く、整った顔立ちのわりに年上には見えなかった。
「私のポイントってこれとか」
顔の高さまで上げたカメラから手を放すと、首のストラップのせいでお腹の位置にカメラが落ち着いた。
僕はせわしなく同時に色々考えている。写真を撮ることがポイントだなんて楽すぎるとか、この学校の方針がきっとポイント制度を推奨してるんだとか、マン ホールは僕だけのものだろうかという不安、他人から見るとマンホールはポイントにならなんじゃないかという恐怖。考えはどんどん悪いほうへ向かう。
「間に合わないよ、そろそろ走んないと」
おもむろに彼女の指がどこかを指さす。ぼくにはとっさになんのことか思いつかなかった。
「電車」
言われて気付く。僕はカバンをつかみ、校門へと走り出した。
「で、たまったポイントでなにすんの?」
僕の後ろを、答えられない問いが追ってきた。
校長室にいたほんの一五分くらいで、校内は静まりかえっていた。部活動が全く盛んでないこの学校の生徒は、みんなまっすぐ帰路に着くようインプットされているらしい。
時間を確認した僕は、暗記してる電車の発車時刻までたっぷり三十分近くあることを知る。二日続けて墓地へ行こうとは思わなかった。そこで、校内を探索しにかかることにした。
この学校には気になる場所があった。昔に貨物路線が通っていた跡地があり、長いホームがそのまま残されているのだ。グラウンドの向こうの藪を抜けると、 ぽっかりと灰色のコンクリートの塊が姿を現した。線路は撤去されていて本当にホームしかなかったが、その片方の端に、上へと伸びる階段がくっついていた。 そして上へ伸びていって、九十度回転したところでぷつりと階段は途切れていた。どこへも続かない階段、かつてはなにかの建物だったのか、そんな想像をふく らませるのには役に立った。
僕はホームへよじ登り、端から端まで歩く。驚くことにこのホームにはマンホールが五つもあった。嬉しくて一つ一つ数えながら、往復した。一つ踏むごとに一ポイントたまっていく感覚が嬉しくて、それが心を豊かに実らせてくれることが、僕を夢中にさせた。
カシャリ。
はっと我に返る。これはデジャヴじゃない。現実だ。
振り返ると、どこにも続かないはずの空で途切れてる階段に昨日の女生徒が立っていた。
なぜ僕の邪魔をするんだ。そしてまた彼女は僕を撮っている。
この憤りをどうしたらいいかわからないまま突っ立ってると、焦る様子もなく彼女が一歩一歩階段を降りてきて、僕の前にまで来た。そしておもむろにカメラを前に突き出し、シャッターを切った。
僕の目はなぜかカメラを見てなかった。カメラを構えてるほうの手首に、痛々しい傷跡を数ヶ所見つけてた。リストカット。
「ポイントためてたんでしょ?」
いきなりの図星に、僕はそれほど我を忘れて夢中になっていたのかと恥ずかしくてたまらなくなる。でも次の瞬間、ポイント制度のことを理解してる彼女のこ とが不思議でたまらなくなり、彼女のことを穴の開くほど見つめてしまう。肩にかかるかかからないかくらいの、こっそりばれない程度に脱色している髪。茶色 い瞳。うぶ毛までうっすら見えそうな白い肌。頬はきれいなピンク色だ。僕よりだいぶ背が低く、整った顔立ちのわりに年上には見えなかった。
「私のポイントってこれとか」
顔の高さまで上げたカメラから手を放すと、首のストラップのせいでお腹の位置にカメラが落ち着いた。
僕はせわしなく同時に色々考えている。写真を撮ることがポイントだなんて楽すぎるとか、この学校の方針がきっとポイント制度を推奨してるんだとか、マン ホールは僕だけのものだろうかという不安、他人から見るとマンホールはポイントにならなんじゃないかという恐怖。考えはどんどん悪いほうへ向かう。
「間に合わないよ、そろそろ走んないと」
おもむろに彼女の指がどこかを指さす。ぼくにはとっさになんのことか思いつかなかった。
「電車」
言われて気付く。僕はカバンをつかみ、校門へと走り出した。
「で、たまったポイントでなにすんの?」
僕の後ろを、答えられない問いが追ってきた。