片田舎の真っ昼間、歩いてすぐの電車のホームは閑散としていた。わかりきったことだった。僕は半分計画していた、学校とは反対のほうへホームを降りてい
き、桜の乱れ散る地面をとぼとぼと歩いて墓地へ入っていく。まだ整地途中、分譲途中の墓地は明るく、ぽつぽつとしかない墓がまるで場違いに思えてくる遊歩
道のある分譲地のようだった。
僕はここが好きだった、家族の墓がここに建つまでは。ここがただの公園に思えたし、四季ごとに色とりどりの花が咲いていて、いつ来ても家族と過ごすと幸 せを演出してもらえたから。でもそれも姉の墓がここに建つまでだった。そのことでここは公園ではなく墓地へ変わった。家族のピクニックだと思っていた楽し げな思い出も消え失せた。小さな墓石ひとつでこんなに大きな規模の造成地が、僕の陰の部分になった。
忘れられもしない、11-Cという芝生だらけの区画に姉の墓はぽつんと建ってる。寂しげに、と表現すべきなのか堂々と、と言い切っていいものなのか、緑 の一面の芝と墓石とはマッチしていなかった。本当だったらあと十年や二十年近く、ここだって緑の芝の予定だっただろう。計画的に、結婚し子供を産んで土地 を買い家を建てた両親は、すでに墓地まで買っていた。その両親の計画では、年老いた自分たちのどちらかがいちばんにそこに葬られるはずだった。年端のいく つもいかない自分たちの娘が真っ先に眠りにつくなんて、考えてもみなかっただろう。
だから僕はここに将来眠るべき安住の地が用意されてるなんて、手はず良く姉の墓が建つまで聞かされてもいなかった。それを知ったとたん、たまの週末にお 弁当を用意し、車でいそいそとここへ家族でピクニックがてら四季を感じに来たのがおぞましい趣向に思えて、過去の家族の喜びの思い出にぞっとした。死を約 束された場所でなにを楽しむのか、僕には理解できなかった。そして姉の死で、すべて計画どおりにいっていた両親のプランに軌道修正は効かなくなったらし い。家族は正しく機能しなくなった。
ピー、カシャッ。
背後からカメラのシャッター音がして、僕の思考を一時停止させる。
振り返ると、小さなデジカメを構えグレーの制服に身を包んだ女子生徒が、明らかに僕と僕の姉の墓を被写体にしているのがわかった。同じ学校の人だ。タイがエンジ色だから同級生じゃない。
「──あ、ごめん」
すぐに彼女はカメラを引っ込めたが、あまり本気で謝っている様子はなさそうで。うっすらと笑みを浮かべているように見えなくもなかった。
関わりたくなくて僕はまた墓石へと体を向け直した。なにかにひたりたかったわけじゃないけど、去ろうとしない背後の人の気配に耐えられなくなって、無神 経な人間へ怒りを持って接する覚悟を決める。振り返ると、やはりまだそこに女生徒はいた。彼女のはにかんだ笑顔にかけるべく言葉を失う。
「新入生君、そこあんたの定位置かもしんないけど、私の定位置でもあるの」
彼女は右手方向にある大きな桜の木と自分の小さなカメラを順々に指さした。
冒涜だな、と思う。ここがただのピクニックだと思ってる輩の一員なんだ、こいつも。姉の墓を見てなんとも思わないのか、そこに僕が立ってる意味すら。
はらわたが煮えくり返りそうになって僕はなにも言えなかった。パシャパシャと桜の方へカメラを向けて写真を撮りだす同じ学校となった生徒と会話するのすら汚らわしく感じられた。
「だってね」不意に彼女は僕に目を向ける。「一面が芝でさ、そのお墓、いい目印になってくれてんの」彼女の目はカメラに戻る。
僕は見られていないのをわかってて、かぶりを振った。そしてなにも言わずそこから立ち去る。不思議と怒りは治まっていた。
僕はここが好きだった、家族の墓がここに建つまでは。ここがただの公園に思えたし、四季ごとに色とりどりの花が咲いていて、いつ来ても家族と過ごすと幸 せを演出してもらえたから。でもそれも姉の墓がここに建つまでだった。そのことでここは公園ではなく墓地へ変わった。家族のピクニックだと思っていた楽し げな思い出も消え失せた。小さな墓石ひとつでこんなに大きな規模の造成地が、僕の陰の部分になった。
忘れられもしない、11-Cという芝生だらけの区画に姉の墓はぽつんと建ってる。寂しげに、と表現すべきなのか堂々と、と言い切っていいものなのか、緑 の一面の芝と墓石とはマッチしていなかった。本当だったらあと十年や二十年近く、ここだって緑の芝の予定だっただろう。計画的に、結婚し子供を産んで土地 を買い家を建てた両親は、すでに墓地まで買っていた。その両親の計画では、年老いた自分たちのどちらかがいちばんにそこに葬られるはずだった。年端のいく つもいかない自分たちの娘が真っ先に眠りにつくなんて、考えてもみなかっただろう。
だから僕はここに将来眠るべき安住の地が用意されてるなんて、手はず良く姉の墓が建つまで聞かされてもいなかった。それを知ったとたん、たまの週末にお 弁当を用意し、車でいそいそとここへ家族でピクニックがてら四季を感じに来たのがおぞましい趣向に思えて、過去の家族の喜びの思い出にぞっとした。死を約 束された場所でなにを楽しむのか、僕には理解できなかった。そして姉の死で、すべて計画どおりにいっていた両親のプランに軌道修正は効かなくなったらし い。家族は正しく機能しなくなった。
ピー、カシャッ。
背後からカメラのシャッター音がして、僕の思考を一時停止させる。
振り返ると、小さなデジカメを構えグレーの制服に身を包んだ女子生徒が、明らかに僕と僕の姉の墓を被写体にしているのがわかった。同じ学校の人だ。タイがエンジ色だから同級生じゃない。
「──あ、ごめん」
すぐに彼女はカメラを引っ込めたが、あまり本気で謝っている様子はなさそうで。うっすらと笑みを浮かべているように見えなくもなかった。
関わりたくなくて僕はまた墓石へと体を向け直した。なにかにひたりたかったわけじゃないけど、去ろうとしない背後の人の気配に耐えられなくなって、無神 経な人間へ怒りを持って接する覚悟を決める。振り返ると、やはりまだそこに女生徒はいた。彼女のはにかんだ笑顔にかけるべく言葉を失う。
「新入生君、そこあんたの定位置かもしんないけど、私の定位置でもあるの」
彼女は右手方向にある大きな桜の木と自分の小さなカメラを順々に指さした。
冒涜だな、と思う。ここがただのピクニックだと思ってる輩の一員なんだ、こいつも。姉の墓を見てなんとも思わないのか、そこに僕が立ってる意味すら。
はらわたが煮えくり返りそうになって僕はなにも言えなかった。パシャパシャと桜の方へカメラを向けて写真を撮りだす同じ学校となった生徒と会話するのすら汚らわしく感じられた。
「だってね」不意に彼女は僕に目を向ける。「一面が芝でさ、そのお墓、いい目印になってくれてんの」彼女の目はカメラに戻る。
僕は見られていないのをわかってて、かぶりを振った。そしてなにも言わずそこから立ち去る。不思議と怒りは治まっていた。