僕は可哀相であってはならない。
 僕は可哀相でなくてはならない。

 僕は四月一日生まれなので、入学するときにはすでに十六歳になっている。
 新入りを意味する染みひとつない制服は、たまらなく居心地を悪くしていた。履き慣れない硬い靴底から伝わる無意味な一歩一歩は、なぜかマンホールの上を 通ったときだけ感触があった。だから、次に見えたマンホールの上も踏んだ。二つ三つと続けていると、もう僕は目に入ったマンホールのすべてを踏まずにはい られなかった。平坦なはずの道の上に、そうやって異端なものがある。なぜそれに意義を覚えたのかわからない。

 今日は学校初日だったけれど、なんの期待やそして不安も抱いてなかった。それがただのアスファルトの一部であるように、ただ受け入れていた。通うべき場 所、着るべき服、乗るべき電車。それらは意味を成してなかったけど、マンホールだけは別だった。踏むべき場所を通り越していた。踏まなくてはならないも の。一本線の通学という行為にプラスアルファをくれる、僕の僕だけの特典に思えた。マンホールを踏めば踏むほどなにかを感じられた。それは喜びにも近かっ た。

 そんなわけで、学校に着いてからすぐ全校集会の体育館に押し込まれても、そんなに悪い気分じゃなかった。
 入学式。ただ座っていればいいとわかっている。わかっていることに挑むのはなにも感じない。たまたま僕の名字がヤナギダだったせいで、壇上からはとても 離れたところに席があった。数百人の上級生や同じ立場の新入生が見渡せる。ほとんどがだらだらとしていた。隣の者としゃべる輩、天井を見つめる新入生、身 体を前後に揺らしてパイプ椅子をカタカタいわせている脳みその足りなさそうな、どう考えても関わりたくない上級生。
 壇上に、校長先生からの挨拶ということで小太りの中年の男性が立った。
 まともに話を聞ける態勢なのは自分だけの気がした。それは優越感じゃない。とんだところへ通うはめになったかもしれないという絶望感だ。
「みなさん、おはよう。新入生の皆さん、初めまして。だらだらしゃべっていても君たちにはアクビものだろうから、手短に伝えたいと思う。この学校は、努力 次第で夢も、夢にもなってない小さな願いも叶う場所だよ。それにはポイントをためないと。わかるね? 自分の個性を大切にした小さなことの積み重ねだ。そ ういうものを見つけられる者は、必ずどんなステージでもこなせる。君たちの健闘を祈る」
 不思議なことに、僕はこの校長の言うことが、なんのことかもっと深く知りたくなった。大人が言う言葉で初めてなにかを信じられるんじゃないかと感じたから。
 そのあと、おのおののクラスへ解散になったが、級友の顔はすべて制服のせいか同じにしか見えず、もっと悪いことに担任の顔はへのへのもへじにしか見えな かった。僕はここでやっていくんだろうな。ただ、それだけ漠然と思った。やっていけなかったらどうしようなんて今から考えても意味がない。