東京45年【92-2】融ける | 東京45年

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東京45年【92-2】自由ヶ丘、帰宅

 

 

 

1986年2月 知床の後、東京

 

 

『玲子さん、こりゃあ上手いな。温まるスープだ。なんていう料理なんだ?』と渡辺さん。

 

 

『ドイツのクリスマスの定番です。キンダープンシュって言うんです。

 

だって、大量にミカンがあるから消費しなきゃと思って』

 

 

『こりゃ上手いな。うん、島が言う事が分かったぞ。これは、胃袋掴まれるよな。。。べた惚れになるのも分かるな』と副会長が言った。

 

 

『そうなんですよ。外で飯を食いたく無いんですよ。。。だって家に帰ったら美味い飯があって、玲が居れば、幸せですからね』と俺。

 

 

『羨ましい限りだな。。。ところで、前から言っていたが、本当に止めるのか?』と渡辺さん。

 

 

『やっぱり、そうなのか???』と副会長。

 

 

『こいつは、そういう奴ですから』と田口さん。

 

 

『そうだ、島。内山さんが結婚するそうだ』と編集長が言った。

 

 

『そうですか、良かったですね』と俺。

 

 

『何か一言無いのか?』と編集長。

 

 

『だから、良かったですねと。。。。。


でも、僕も結婚しますから』と俺。

 

 

『お前はいつするんだ?』と副会長。

 

 

『来年かと思っていたんですが、今年でも良いかなとも思っています。出来れば玲が30才になる前にどうかなと思っています。知床で思いました』と俺。

 

 

『新入社員なのに大丈夫か?』と副会長。

 

 

『結婚と会社は別でしょう。

 

それに玲にまだ聞いていないので、分かりません。

 

ただ、夜行で帰って来る時にフッと思ったんですけど。。。。

 

こいつの手料理はプロを負かす程の腕前ですよ。

 

それを自慢したいんです。

 

あと、玲の横だと安心して眠れるんです。

 

それに、もちろんSEXも良いです。

 

そうなんです。


これ以上望む事はないんです。

 

問題は僕が子供だって事ぐらいですかね』


と俺。

 

 

『そんなに早く結婚式なの???もう3月よ。準備が大変だわ』と玲。

 

 

『いや、玲が30才になる前に籍を入れるのも良いし。。。。まあ、ゆっくり決めようよ。。。。結婚式は来春か、来年の6月頃っていうのはダメかな?』

 

 

『うん、それなら良いわよ!!!うふふ、あなたが言う「嫁さん」になれるんだわ』

 

 

『やっぱり、そうか』と副会長。

 

 

『お前は8年間よく頑張った。本当に頑張った』と続けた。

 

 

『だがな、山は行かなくとも、たまには家に遊びに来てくれ。家内がお前たちのファンになった様だ』

 

 

『はい、喜んでお伺いします。。。そうだ、副会長、一度ご相談したかったんですけど、僕の就職先って丸の内に変更って出来ないですかね???』と俺。

 

 

『司、それはダメよ!!!大きな企業が許すはずが無いわ。だって、三菱電機って12万人の社員が居るんでしょう?子会社も含めたら20万人は居るわよ。。。そんな中でわがまま言ったら。。。。』と玲が言った。

 

 

『それは、俺じゃ分からんな。だが、ダメ元で古田に聞いてみるよ。それで良いか?でも、いきなり、どうしてだ?』と副会長が答えた。

 

 

『だって、玲が五反田勤務で、僕が鎌倉勤務で。。。仕事に打ち込むには時間があった方が良いですよね。それに、何よりも玲と一緒に居られる時間が通勤時間に取られて嫌なんです。それに、鉱物学をどうしようかと思っているんです』

 

 

『また、単純な事を言う奴だな。。。嫁と一緒に居たいって理由か。。。。。。まあ、ダメ元だから聞いてみよう!!!』と副会長が言った。

 

 

『ありがとうございます』と俺。

 

 

『但し、もし、それが出来た時は、玲子さんの手料理を食べさせて貰う事が条件だが、どうだ?』と副会長。

 

 

『それは喜んで御作りしますけど、そんなわがままを通したら、職場で司を周りの見る目が。。。。とにかく後が心配です』と玲が言った。

 

 

『玲子さんの手料理が食えるなら、俺は賛成だな。その時は俺達も副会長のご自宅にお邪魔したいですよ』と田口さん。

 

 

『お目当ては、玲子さんの手料理だろう?なんで、うちなんだ?』と副会長が聞く。

 

 

『それは、食材が高そうだからですよ。金持ちの家の食材は良いし、良いシェフがいるとなれば、絶対に旨いじゃないですか?』と渡辺さん。

 

 

『たかりに来るって事か?あははは。。。まあ、良いだろう。それに家内も喜ぶだろう。なんせ老人二人暮らしだから活気がないからな』と副会長。

 

 

俺は山の緊張が下山してから4日目でやっと融けて行くのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

側には、玲が居た。

 

 

『玲、やっと融けて来たよ。やっと、安全な場所にいる感じだよ』と言った。

 

 

『司に抱かれて幸せだわ』と玲が言った。