東京45年【91-6】実感 | 東京45年

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東京45年【91-6】実感

 

 

 

1986年2月、25才

 

 

『だから、もうしません。

 

帰って来て玲の顔を見たら安心したんですけど。。。。。

 

まだ、緊張が融けて無くて。。。。。。

 

深夜にお風呂に入ったら、また、泣けちゃって、泣けちゃって。。。

 

なんで泣いているのか、分からないのに泣いていました。

 

だから、僕の山は終わりました。

 

僕は、玲の側にいたいんです。

 

とにかく、玲の側に居たいんです。

 

もう、どこにも行きたくないんです。

 

 

踏破出来たのは玲のお陰です。

 

それ以外は、ありません。

 

帰りの電車でも、ずっと玲を思い出して、言い忘れた事や。。。

 

思い出が次々に浮かんで。。。。。

 

ドンドン玲に近付いて行く嬉しさで泣いて、

 

1人にした情けなさで泣いて、

 

寂しくて泣いて、

 

そのうちなんで泣いているのか、

 

全部の感情で泣いている感じでした。

 

 

いろんな玲が出てきて、全部好きなんです。

 

怒ってる玲も、

 

悲しがっている玲も、

 

寂しがっている玲も、

 

喜んでいる玲も、

 

ビックリしてる玲も、

 

笑っている玲も、

 

全部僕の中にいるんです。

ビックリしている玲が出てきたら、笑えちゃって、

 

おかしかった。

 

 

僕の中にいる玲が、ずっと玲が僕の中にいて、一緒に見ててくれるんです。

 

だから、知床は玲のお陰です。

 

今は、玲に巡り合う為に、山をやってきたんだと思っています』

 

 

『。。。。。。。。。』

 

『。。。。。。。。。』

 

『。。。。。。。。。』

 

 

『司、ありがとう。愛しているわ。無事に帰って来てくれてありがとう』

 

 

 

 

『そうか。とにかく、よく無事で戻った。生き抜く事が山登りだって言っていたもんな』と田口さんも泣きながら言った。

 

 

玲も泣いていた。俺も泣いた。

 

 

俺は玲を抱き締めた。

 

 

田口さんも俺達を抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

『田口さん、俺いつもと違うんです。

 

いつもは山が終わると寂しくなるんですけど、今回は全く寂しくないんです。

 

未だ、山を感じていて、心の中に山がある感じなんですけど。

 

玲も感じられて、山と融合してるんです。

 

融け合っているんです。

 

一番大きいのは玲なんですけど。。。。

 

その中に田口さんも渡辺さんや副会長も編集長もいろんな人たちがいるんです。

 

それに帰って来てから、今回は寂しく無くて、玲が側に居てくれて、裕福で、幸せなんです』

 

 

 

 

『俺はそんな感覚になった事は無いが、きっと突き抜けたんだろうな』と田口さんは言った。

 

 

『やっと辿りついた感じです』

 

 

『竹中が居なくなって、茂子さんも居なくなって。。。。きっと、お前ら二人はこうなる事が決まっていたのかもな。。。。』

 

 

『。。。。。。。。。』

 

 

『はい、私はそう思っています』と玲が言った。

 

 

『これは必然だと思っています。

 

しょうちゃんが好きでしたけど、愛じゃなかったんです。

 

魂の触れ合いは無かったです。

 

司と出会ってそれを学びました。

 

愛って魂の触れ合いだって思っています。

 

心と心が繋がるって、物凄く安らかで、穏やかなのに、厳しさも感じます。

 

厳しいのに安心出来るんです』と続けた。

 

 

『愛って二人で育てて、形なんて無いけど、すぐそこにあるんです。そこにある事を気付く事なんです。探さなくて良いんです。求めなくて良いんです』

 

 

『これからも、愛してね』

 

 

『もちろんさ』

 

 

 

 

『お前らは羨ましいな。。。』と田口さんが言った。

 

『島は、山を突き抜けて、玲子さんは、そんな島を短期間で理解して。。。。。』と続けた。

 

 

『理解したんじゃないです。彼が感じさせてくれたんです。最初の時からゆっくりで良いから感じようって言ってくれて、でも、早かったですけどね』と玲が笑った。

 

 

『やっぱり、玲は、キラキラしているよ』と俺が答えた。