ルートの都合で、小さな小さな海辺の町に泊まった。
その時間の止まったようなところが好きだった。
色がきれい。
すごく静かだったので、
一瞬
いつの時代かわからなくなった。
素敵な瞬間。
客引きが来ない。
仕方ないから、海辺をぶらぶらしていたら、
犬と戯れているおばさんが声をかけてきた。
「うちにとまりなさいよ。」
おばさんの言うまま、後ろについていき、案内された部屋。
ここも、私が旅した少し前まで戦争をしていた場所だったと思う。
ガラスには、ガムテープ。窓には、銃弾のあと。扉の前には思い机が
おいてあった。
部屋は、なんだか犬くさく、毛布もしっとりしていた。
おばさんは、たぶん少し心が病んでいた。
お金もあんまり持っていなくて、宿代前借りで、
そのまま一緒に案内してくれた小さいお店で、
かりてたお金を返して、犬にあげるパンの耳を買った。
そして、少しお店の人と口げんかした。
娘がいるけど、会ってくれない。
犬と飼っていたインコだけが家族だと言ってた。
でも、犬にもインコにも私にも優しくて、
私はとてもいい人だと思った。
次の日も、お別れに朝早く起きてくれて、
コーヒーとサンドウィッチを一緒に食べた気がする。
出発のときも、手を振って見送ってくれた。
もう会うことはないけど、
時々思い出す人。






