あの歌声。 (5) です。

お楽しみ下さい!





保乃side


壊されていて意味を成していない鍵付きのドアを開け、昔から変わらない場所へと足を踏み入れた。


保「…やっぱりここは落ち着くなぁ」

ひ「屋上、入れたんですね。」

保「ほのがおる時から入れたで!」
    「知らんかったん?」
     「まぁひぃちゃんは階段下におるから知らんか笑」

ひ「あ、今バカにしましたか?笑」

保「してへんよ笑」


昔から変わらない景色。
屋上の隅に置かれている椅子に腰を掛けて黄昏れるのが私の日常だった。


授業を抜け出してここで寝ていたこともあったっけ。


学生の頃は不良でもなけりゃ、優等生でもないと思っていたのだが、世間一般で見ると少し、グレていたらしい。

部活のメンバー達も、今でこそ落ち着いているが、当時は喧嘩なんて日常茶飯事で壁とかドアに穴いっぱい開けて怒られたっけ。笑

学校自体が不良の集まりみたいな所だったから仕方ないかも。

そんなことを思い出しながら黄昏ていると
ピコンと、携帯から通知音が鳴った。

携帯を見ると『理佐』と書かれていて、通知を開くと、

理「お店決まったから住所送るね!」

と、位置情報が送られて来ていた。

保「ひぃちゃん、理佐から場所教えてもらったからいk…」
    
荷物をまとめつつ振り返ると、自分のブレザーを枕にして寝ていた。
ブレザーを枕にしているため、肌寒いのか少し丸まって寝ていた。
その姿はまるで寒さを凌ぐ小動物のようで。


可愛い。可愛すぎる。何だこの生き物は。


椅子から立ち上がり、ひぃちゃんの方へと向かった。
ひぃちゃんの隣へと座り、規則正しく聴こえる寝息に耳を傾けながら、顔を眺めた。
綺麗な顔してるなぁ……。
綺麗に上を向いている睫毛。
筋の通った鼻。
愛くるしい唇。
その全てを自分のものにしてしまいたい。
触れたい。
そう思ってしまった。



少しぐらい…バレないよね。




チュッ





保「…ひぃちゃん。」
    「好きやで。」







ひかるside


連れて行かれたのは屋上だった。
鍵がかかっていると思っていたのだが、壊されているみたいだ。

保「…やっぱりここは落ち着くなぁ」

何を考えているんだろう。
聞きたかった、だが自分の本能が聞いてはいけないと言ってるような気がして聞けなかった。


ひ「屋上、入れたんですね。」

保「保乃がおる時から入れたで!」
    「知らんかったん?」
     「まぁひぃちゃんは階段下ににおるから知らんか笑」


ん?私今バカにされた?バカにされたよね?

ひ「あ、今バカにしましたか?笑」

保「してへんよ笑」

あ、はぐらかされた。

保乃先輩を目で追っていると、隅の方にある椅子へと足を運んでいた。
その椅子に座り、何かを思い出すかのような顔でフェンスの外を眺めていた。

先輩と少し距離を取って、床に腰かけた。

昔のこと思い出してるのかな。
貴方の隣には何人の人が立ってきたのだろう。
今もその隣に立つ人は居るのだろうか。
その隣に立つ人が私ならいいのに。


ぽかぽかと私達を照らす太陽に、程よく抜ける風。
私の睡魔を呼び起こすには十分すぎた。
少し寝よう。

そう思い、ブレザーを枕にして横になった。
やっぱりブレザーを脱ぐと少し寒いな。
初恋の人を眺めながら、私は夢への扉を開けた。



……………………………………………………


保「…ち…さか…も…ら…い……」

ん…?
保乃先輩に起こされたかな。
そろそろ起きなきゃ。

そう思い目をうっすらとあけると、保乃先輩がこちらへと歩いてくるのが見えた。

もう1回起こされたいな。
そう思い寝たフリをした。


起こされない。
痺れを切らしてもう一度薄目を開けると、先輩がこちらをじっと見ていた。
何をしてるんだろうと思っていると、顔が近づいて来た。
起こされるんだと思って身構えると、




チュッ




え……?
今キスされた…?




保「…ひぃちゃん。」
    「好きやで。」


















お読み頂いてありがとうございます。
6話もお楽しみに。