緊急と時間と憂鬱と 055 | れびりんす

れびりんす

人生という迷宮と向き合う日々の記録と記憶と何か。

 
 
 
 
 
 部屋に飛び込んだ風雨は大気の首に手を掛けている光平に飛びついた。
 
 勢いで光平は大気から弾き飛ばされる。
 
 
 
 
 
 てめぇ!
 なんで邪魔すんだよ!
 
 …と思ったのに声にならない。
 なんだこれ。
 
 あ、オレ死ぬのかな。
 
 
 
 違う。
 
 風雨。
 
 フーだ。
 
 守りたかった。
 
 大事な、一番大事な。
 
 
 
 あれ?
 
 
 
 
 
 風雨は必死に呼びかけた。
 
 飛び掛った勢いで壁に後頭部を強打した光平に。
 身体を揺すりたい衝動もあったけれど、頭を打っている。
 だから大きな声で名前を呼んだ。
 
 妙な冷静さで大気の縄を解こうとする。
 あまりの異常な状態に、さっきまで出ていた声が何も出ない。
 静寂。
 
 手では縄が解けない。
 すっと立ち上がると台所へ。
 引き出しなどを漁るうちに少量の食器の中に一本だけペティナイフを見つけて手にする。
 
 縄を切った。
 大気が力なく床に解放された。
 ぴくりとも動かない。