18時過ぎ、のどかが仕事をしている
新宿都庁前に着いた。
オフィスには入らなかった。
なぜそうしたかわからないけれど、
なんとなく、木之本もいたらまずい気がして、
彼女に建物の外で待っていると
ショートメールをした。

目の前が大きな公園になっている。
新宿中央公園だ。
冬の陽はもうとっくに暮れているが、
街灯りで周囲は明るかった。

その前を行き交う人を見ながら、
冷たい風を防ぐようにコートの襟をたて、
のどかが来るのを待っていた。

マスクをしている人としていない人を、
20人くらいまで数えてみた。
12人がマスクをしていた。
男女比まで数えてなかったけれど、
一体どっちが多いだろう、
そこには差異がないかもしれない。
いや清潔感からすると、
女性の方がマスクが多そうだな、
そんなこと考えていたら、

「お待たせしました。
すいません、遅くなっちゃって、」
冷気の中に、
かすかに香水らしい香りが混じっていた。
のどかは髪をかるく揺らして、
さっきの電話の会話が嘘みたいに、
弾んだ感じで話していた。

僕と同じような紺のコートを着ている。
「寒かったですか?
すいません、ちょっとつかまっちゃってて」
仕事の引継ぎかなんかだろう。
僕はちょっと頭上を見上げる仕草をして、
そういえば、今年の冬は
それほど寒くないなとふと思って、
「そんな、寒くないですね」
そう答えて、
「どっか入って話しましょうか」
「ええ、それでもいいですけど、」
のどかはそう言うと、周囲を見渡して、
「公園でもいいですよ、寒くなければ、
ベンチとか」
中央公園は敷地は広いが、
起伏があって、奥までは見渡せない。
僕らは手前の広場の
ベンチの1つに腰をおろした。
自販機があったので、
僕はあたたかい缶コーヒーを1つ買う。
彼女にもどうかと聞いたが、
のどかは首を横に振って、
大丈夫ですと答えた。

座ってしばらくは、
今やっている事務処理のこと、
どこが大変で、
こういうとこ最適化できるのにとか、
そういうことをのどかは話していた。

木之本のこと、
何か話したいと言っていたから、
僕から切り出すべきなんだろうか、
そう考え始めたその時、
彼女は、
「わたし、あの人と上手くいかなくて、」
「あの人?」
「木之本さんです」
彼女は僕を見ず、
公園を行き交う人を見るように、
ただ前方に視線を向け、そう言った。

 

プロジェクト696日目。

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