目の前の夜の中に虹色の魚が泳ぎ出すと、水面に落ちた一滴の油のようにどんどん広がって、全て私から離れていってしまうので、引っ切り無しにかき混ぜては、逃げる魚を掴んで、虹色の背びれをそっと撫でつけておりました。
大きく見開いた目玉には空っぽの空間だけが映っているようで、じっと動かない瞳が何だかとても不憫に思え、親指で曇りを拭うように眼球を撫でてあげましたが、二度と私を見つめ返してはくれなくて、じっと向こう側ばかりを見つめて、丸く口を開けておりました。
あれほど可愛がっていましたが、今こうして手に取って見ると、随分小さくて生臭くて憎たらしくて、どんなに絞めつけたってぬるりと逃れてしまうので、引っ切り無しに引っ掻いて、油にまみれた表面を全部こそぎ落してやろうと誓いましたが、どんなに強く爪を立てたって水の中の油は捕まえられなくて、いつも目の前の夜の中を探しておりました。
深く暗い夜の中、何時までもまさぐるようにかき混ぜて、何処までも何処までも広がる波紋を追いかけて、濁りきった夜の中を、たった一度だけ覗いた虹色を追いかけて、冷たい中を泳いでいきましたが、油のように隔離されたべたつく表面は、全ての水を弾くように全部をはじき返してしまい、引っ切り無しに手を差し伸べて、私達のためだと叫びましたが、二度と混じることは出来なくて、どんどん、どんどん離れていくと深い深い闇に溶け込んでいくのがよく分かりました。
たった一人、一人だけ、もうこれで最後だと、目の前の夜の中に落ちてくと、水面に落ちた一滴の油のように虹色に広がって、すべてから逃れるように暗闇の中に泳ぎ出していきました。
よくわかりませんが、そんな日もあるのでしょうか、
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