皆さまが、

「心ゆたかに生きる」

のに役立ちそうな本を紹介しています。

 

今回は、

前回までと少し趣向を変えて、

小説を紹介します。

 

遠藤周作さんの、

女の一生 二部・サチ子の場合

です。

 

遠藤周作さんといえば、

沈黙

海と毒薬

わたしが・棄てた・女

深い河

あたりが有名ですが、

(いずれ紹介したいと思います)

今回は、少しマイナーな、

女の一生 二部・サチ子の場合

を紹介します。

 

私は学生時代から、

遠藤周作さんの本が好きです。

 

精神的に高まるような気がするのと、

何だか、心にずっと残るものがあるので、

今でも、たまに読み返したくなる本が多いです。

 

また、エッセーや人生論も、

ユーモア溢れる中で、とても深いものを感じます。

 

「プラスにはマイナスがあり、マイナスにはプラスがある」

という捉え方をはじめて学んだのは、

遠藤周作さんの本からでした。

 

今回の、

女の一生 二部・サチ子の場合

は、第二次世界大戦下の長崎が舞台なのですが、

並行して、入れ替わり立ち替わりで、

アウシュビッツ強制収容所が描かれます。

 

そこで登場する、

コルベ神父と、

ある若い男に、

今回は、フォーカスを当てて解説したいと思います。

 

コルベ神父は、

7つの習慣(4)第一の習慣「主体的である」

でも少し紹介しましたが、

ポーランド出身の実在した人物(のちに聖人)で、

日本の長崎にも住んでいたことがあります。

 

のちにポーランド帰国後、

アウシュビッツに収容されてしまうのですが、

この小説では、

ヘンリックという一人の若者が、

コルベ神父と対比されて紹介されます。

 

このヘンリックという若者、

私たちと同じように、いわゆる「俗物」なんですね。

収容所という過酷な環境の中で、

まず第一に自分が生き延びることを考えています。

 

でも、考えてみたら、

そりゃそうですよ、当然ですよね(^^;

 

生きるか死ぬかの世界。

ホンネのところ、

私も、そのような過酷な環境下であれば、

そのような思考になると思います。

 

ヘンリックはコルベ神父に言います。

(以下、引用)

「神父さん、俺は天国は信じんが、地獄のほうは信じるぜ。

この収容所が地獄だ」

 

「まだここは地獄じゃない。地獄とは・・・

ヘンリック、愛がまったくなくなってしまった場所だよ。

しかしここは愛はまだなくなっていない」

「昨日、私は一人の囚人がもう一人の体が弱った囚人に、

自分のパンを半分わけているのを見た。

一日たった一つしかもらえぬあのパンをだよ」

 

「信じられない」

とヘンリックは首を振った。

「そんなことはこの収容所ではありっこない」

 

「いや。それがあったんだ。

私はそれを見て人間がまだ信じられると思った。

人間はどんな時でも自由が残されていると思って、

自分が恥ずかしくなった・・・」

ヘンリックは神父をにらんだ。

「あんたが人間を信ずるのは勝手だ。

だが俺はここでは他人は信じない。

信じれば、いつやられるかわからない。

あんたがその立派な男をみて、

自分のパンをくたばりかけた野郎にやるならやるがいい。

しかし誰も感心しないぜ。

お前のことを偽善者のセンチな甘い野郎だと言うだろう。

愛なんてやさしいものさ。

俺だって何人の女に愛を口にしたかわかりゃしない」

 

「ヘンリック、しかし、愛はたやくすないのだよ」

コルベ神父は悲しそうな眼をした。

 

「くたばれ」

毒づいて去っていくヘンリック・・・

(引用終わり)

 

後日、囚人の脱走者が出ます。

 

見せしめとして、

理不尽にも10名が飢餓室で処刑されることになります。

 

無慈悲にランダムで10名が指名されますが、

その中の一人の男が、うめくように叫びます。

 

「女房と・・・子に・・・会いたい」

 

・・・

 

その時だった、

助かったグループから、

一人の囚人が列を離れて

のろのろと前に歩いてきます。

 

「私を・・・」

「その泣いている人と、かわらせてください」

 

コルベ神父です。

 

「彼には妻や子供があります・・・

私は神父ですから

死んでも歎き悲しむ妻子はありません。

それに私は年を取っています」

 

コルベ神父は、

飢餓室で、10人の仲間と賛美歌を歌いながら、

14日間生きながらえますが、

最期は注射により処刑されました。

 

 

コルベ神父たちが亡くなったという情報は、

意外に早く伝わりました。

 

そして、その日の労働が終わった夕暮れ時・・・

 

(以下引用)

西のほうの地平線が今日も薔薇色にそまった。

「作業終了」の笛があちこちで鳴り、

囚人たちは自分たちの掘った穴から這いあがり、

点呼を受けるため整列した。

彼等の前面には燃え上がる空と、

夕日を受けた城のような雲が拡がっていた。

囚人たちが番号を叫んでいる間、

うるんだ硝子玉のような夕陽が少しずつ落ちていった。

 

「ああ・・・」

 

と一人の囚人がつぶやいた。

 

「なんて、この世界は・・・美しいんだ」

 

みんな黙っていた。

ああ、なんてこの世界は美しいのだろう。

昨日までこの世界は愛もなく喜びもなかった。

ただ恐怖と悲惨と拷問と死しかない世界だった。

それが今日、この世界はなんて美しいのだろう。

 

彼らはその世界をかえてくれたものがわかっていた。

愛のない世界に愛を作ったものを・・・。

 

それから長い間――、

 

収容所のなかでヘンリックの記憶の底から、

あのこわれた丸い眼鏡をかけた

コルベ神父の顔がたびたび浮かび上がった。

(引用終わり)

 

 

次回に続きます!

今回もお読みくださいまして、有り難うございました。