【Please call my name!】
私、最上キョーコは、一番大切な先輩、敦賀さんと、先月から恋人としてお付き合いさせてもらってる。
敦賀さんから告白された時には何の冗談かと思ったけれど、敦賀さんの語る、今までの私への(私がまったく気づかなかった)アプローチの数々を聞き、それから急に、敦賀さんを意識してしまって…。
『私じゃなければ勘違いしてしまう』と思っていた敦賀さんの行動が、正しく『私を勘違い(むしろ本気に)させるため』だったと理解し、そのたびに感じていたドキドキが、恋なのだとわかってしまった。
私はその場でしどろもどろと、だけど色好い返事をして、世間の女性が喉から手が出るほどに欲しいだろう、『敦賀蓮の恋人』の座に収まったのだった。
だけど、付き合ってようやく1ヶ月。
私はまだ、敦賀さんの隣にいることに慣れない。敦賀さんは、二人きりになると、私をベタベタに甘やかそうとするのだけど…。
「最上さん。こっちにおいで?」
「…で、でも、敦賀さんお疲れですし……」
「俺が癒やされるから、いいんだよ。ほら、おいで?」
両手を大きく広げ、敦賀さんはすっかり受け入れ体勢。待ち受ける敦賀さんの顔が、いつか見たカイン丸のようで…観念した私は、敦賀さんの腕の中に納まる。すると、敦賀さんはひょいと私を抱き上げて、膝の上に乗せると、ぎゅうっと抱き締めてくれた。
私の方こそ、癒やされてしまう。『敦賀セラピー』は、私の身も心もふにゃふにゃのくにゃくにゃにしてしまい、気が付くと寝室に運ばれていて、敦賀さんに抱き締められたまま眠ってしまっていた。
今日もお夕飯を作りにきたのに、「何かデリバリーで頼めばいいじゃないか。それより、俺のそばにいて?」と言って、私を離してくれない。
敦賀さんの腕に抱かれて、広い胸に抱き留められて。私は今日も、ふにゃふにゃのくにゃくにゃのでろでろで。
私ばかり、敦賀さんからいろんなものをもらっている気がして、申し訳ない。
なんとか意識をかき集め、私は敦賀さんのシャツをくいくいと引っ張った。「ん?」と首を傾げながら、敦賀さんは私と目線を合わせてくれる。
「どうしたの?最上さん」
甘い甘い、声の響きに、ドキドキする。神々しい微笑みがすぐ目の前にあって、ついぽ~っと見とれてしまう。
だけど、今は見とれてる場合じゃない。
「敦賀さん、お願いがあるんです」
そのお願いは、お願いをするのがなんだか恥ずかしい…というか、照れくさい。
ちらっと上目遣いに見上げると、敦賀さんはなぜか無表情だった。
「つ、敦賀さん?」
「………あ、ああ!なんでもないよ。何?お願いって?」
キュラララッと眩しい笑顔。なんとなく似非紳士っぽい感じがしたけど、私はじっと敦賀さんを見つめたまま口を開いた。
「キョーコ、って、呼んでください」
付き合っても、敦賀さんは私のことを『最上さん』と呼ぶ。私だって敦賀さんと呼んでいるし、私のことをそう呼ぶのは今や限られた人だけだから、特別な気がしてうれしくもある。
だけど、一緒に過ごすうちに、呼んでほしい、と思うようになった。
甘い甘い、声で。表情で。全身で私のことを「好きだ」と言ってくれる、敦賀さんに。
私(キョーコ)の名前を、呼んでほしくて。
「ダメですか…?」
また無表情になって、黙ってしまった敦賀さんに、不安が膨らむ。恐る恐る声をかけると、敦賀さんはハッとしたように目を見開いて、真剣な表情になった。
「…………いいの?」
確かめように、念を押すように。敦賀さんは私の目を見ながら聞いた。
…そんなに、このお願いは重かったのだろうか?涙が出そうになって、ぐっと奥歯を噛み締めて抑えながら、私は頷いた。
呼んで。
私を。
あなたの声で――――――――
「キョーコ」
ぽろりと、涙が一粒溢れて、頬を伝った。敦賀さんの胸に顔を押し付けるように抱き締められて、私は慌てて首を横に振った。
「ち、違うんです!こ、これはうれしくて…」
「うん…わかってる。俺も、うれしいよ……」
顔を上向かされて、見えた敦賀さんの表情は、似非紳士でも、世間で『春の陽射し』と称えられている微笑みでもなかった。
「キョーコ、俺だけの、キョーコでしょ?」
ただ、うれしくてたまらないと、言っている。
これはきっと、敦賀さん本来の笑顔。
私だけ、の…。
「蓮…」
私は自然と、敦賀さんの名前を口にしていた。敦賀さんの目が丸くなって、次の瞬間、蕩けそうな笑みを浮かべた。
「キョーコ」
砂糖でできているかのような甘やかな声。そこの乗せられた私の名前。
これが、愛される幸せなのだと、私は心が満たされるのを感じた。
蓮の背中に回した腕に力を込め、降り注ぐキスの雨にそっと目を閉じた。
end.
『ひたすら甘く』を目指してみました。
本館1万ヒット記念SSでした。
サンドヘルイエーイ\(^o^)/