「いのちぼうにふろう」(1971)

無法者たちが織り成す人情物の時代劇をU-NEXTで観ました。初見。

監督は小林正樹。予告編はコチラ。

江戸時代のお話。深川に浮かぶ千坪ほどの小島に『安楽亭』という名の一膳飯屋がポツンとありました。店の旦那は幾造(三代目中村翫右衛門)、手伝いをしてるのが一人娘のおみつ(栗原小巻)。そして、お客はゴロツキの吹き溜まりとなっていて、定七(仲代達矢)、与兵衛(佐藤慶)、政次(近藤洋介)、文太(山谷初男)、由之助(草野大悟)、仙吉(植田峻)、源三(岸田森)といった面々。彼らは幾造を親分とした抜荷稼業(禁制品の密輸)に従事していて、安楽亭を寝床にして暮らしています。魔の巣窟となっている安楽亭には、近隣住民は誰も寄りつかず、同心すらも店内には入ることができないでいました。一つ屋根の下にいるものの、お互いのプライバシーには踏み込まず、仕事のない時は小バクチをしたり、酒を飲んだりして時間を潰しているのが彼らの日課。最近、フラリと訪れて以来、毎日入り浸って一人酒を嗜んでる客(勝新太郎)の姿もあります。

ある日、定七と与兵衛が街で無銭飲食で袋叩きにされていた富次郎(山本圭)を安楽亭に連れてきます。同じころ、灘屋の小平(滝田裕介)から抜荷の仕事が持ち込まれますが、前回、小平が斡旋した仕事で仲間が二人死んでいるため、兄貴格の定七は仕事を受けることを渋ります。地回りの同心が新任となって、岡島(中谷一郎)と金子(神山繁)が安楽亭をガサ入れしようと躍起になっている点も、おとなしくしていたい原因の一つ。しかし、富次郎の身の上話を聞いた安楽亭の無頼漢連中が抜荷で稼いだ金で富次郎を救おうと言い出して、柄にもない行動に出ます。決行当夜、選ばれたメンバーが二艘の舟で出発すると、奉行所と内通していた小平が仕組んだワナだと気づくも、時すでに遅し。帰りを待つメンバー同士でも別のエピソードがあったりしてるうちに、追っ手から逃れた定七が戻って来て、それを追ってきた御用提灯の群れが島を包囲して・・・というのが大まかなあらすじ。

劇場公開は1971年9月11日。山本周五郎の短編小説『深川安楽亭』を東宝と俳優座で製作。脚本を担当した隆巴は、仲代達矢の妻で女優の宮崎恭子。ならず者たちがシェアハウスで生活している群像劇で、刹那的に生きている小悪党がひょんな成り行きで危ない橋を渡るお話。キッカケは、介抱した男がクソ真面目な奉公人で、愛する人(酒井和歌子)が女郎屋に売られてしまった嘆きを聞いたこと。自分たちとは正反対で地道に生きている青年の不遇にふと直面して、魔が差したかのように無償で行動します。世の不公平に対する激しい怒りから命を懸けるというよりは、チンケな野郎たちにほのかに沸いた善意とささやかな気まぐれが原動力になっている点がポイント。いろんな背景を持つ人間たちの良い面と悪い面がないまぜになったまま、それぞれの感情の機微が交差したり、しなかったりする微妙なサジ加減が山本周五郎作品の醍醐味であると思います。

本来なら、東映の大部屋俳優を使って沢島忠監督あたりでサラっと作ってほしいタイプの内容なのに、オープンセットを使ったキメキメの構図での撮影とガチの仰々しい演劇芝居には堅苦しさが充満していて、どうにもいただけません。俳優さんたちが立派すぎるのが難点なのかも。原作との相違点は、安楽亭の悪党を取り締まる同心が一人から二人に増えている点。仕事を斡旋した小平が同心と結託している点。罠にハマった定七が安楽亭に一度戻ってきてからラストに大捕り物が展開される点(原作では、与兵衛以外の実働メンバーは輸送中に包囲されて帰らぬ人となります)など。店に入り浸っていた謎の男が金儲けと引き換えに妻子を失ってしまった過去を持っていて、悪党たちの働きが水泡に帰した後に、恋人の身請金として持ち金を富次郎に全部渡す(原作の結びの場面となる)エピソードはクライマックスの前に挿入されていて、勝新が味のある一人語りの演技を見せてくれます。力作ゆえに細かい味わいが消えてしまった印象のある映画でございました。

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