「女の座」(1962)

愛憎渦巻く家族の物語をU-NEXTで観ました。初見。

監督は成瀬巳喜男。予告編は見つけられず。

父の金次郎(笠智衆)が重症という一報を受けて、長女の松子(三益愛子)が実家の雑貨店『石川屋』に戻ってきますが、庭の大きな石を運ぼうとして腰を痛めただけだと聞いてホッとします。父の病床近くにいるのは、後妻のあき(杉村春子)、亡くなった長男の嫁芳子(高峰秀子)、次女の梅子(草笛光子)、四女の夏子(司葉子)、五女の雪子(星由里子)の同居組と、渋谷で中華料理店を開いている次男の次郎(小林桂樹)。松代は先妻の長女でアパートを経営してますが、年下の夫(加東大介)が下宿人と駆け落ち中。梅子はシングルライフを謳歌していて、師匠をしている生花教室が大繁盛。夏子は勤務先が倒産して失業中。雪子は映画館の切符係をしています。夫を亡くして肩身の狭い芳子は一人息子の健が唯一の希望で、いい高校・大学に入ってくれることを夢見ています。やがて、九州に嫁いだ三女の路子(淡路恵子)も無職の夫(三橋達也)を連れて上京。長男の三回忌まで実家に居座るつもりの様子。

次郎の中華料理店を手伝わされることになった夏子は常連客の気象庁職員青山(夏木陽介)を一目見て好意を持ちます。しょっちゅう店に出入りしている雪子が夏子を冷やかしますが、実は雪子自身も青山に想いを寄せてます。その後、大手企業のエリートとの縁談話が急浮上して、翌月にブラジル転勤となる相手からお見合いの返事を急かされる夏子。青山も近いうちに富士山頂の観測所に転勤すると聞いて、心が揺れ動きます。そんな折、松子のアパートに入居してきたイケメン(宝田明)が、偶然にも後妻あきが最初の結婚で産んだ子であることが判明。家に来たイケメンを見て色めき立ったのは、これまで恋愛に関心がなさそうだった梅子。運命の再会に喜びつつも、前夫譲りのだらしない性分を見抜いて不安がるあき。芳子の妹(団令子)の友人がイケメンに騙されたことを聞いた芳子は梅子が心配でなりません。ただ、あきを気遣ってイケメンを悪く言うこともできず、さらには、イケメンが好きなのは未亡人の自分だということも分かって・・・というのが大まかなあらすじ。

劇場公開は1962年1月14日。同時上映は「乾杯!サラリーマン諸君」。お正月映画らしく、東宝のスターが大挙出演。先妻が産んだ二男ニ女、後妻が産んだ三女の各々の生活事情を細かく描いてます。登場人物が多いため、他の成瀬作品よりも人物の掘り下げは抑えめの印象。長男に先立たれて他人の家で暮らす高峰秀子の設定は「乱れる」と同じ。中盤までは石川家の実子たちのドタバタを傍観してる立場でしたが、終盤は冷静さを失った次女梅子にビンタされるだけじゃなく、大事な一人息子がいきなり死んでしまう怒涛の展開が待ち受けていて、どんどん悲劇の主人公と化していきます。最後、土地を売り払った後も一緒に暮らそうと笠智衆と杉村春子が言ってくれるので、少しだけ救われます。次男の小林桂樹は奥さんに愚痴られる平凡な夫。長女の三益愛子の夫は、愛人に捨てられて戻ってくるダメ男。次女の草笛光子が惚れた男は、女を平気で捨てるクズ男。三女の淡路恵子の夫は、お調子者なだけのヤワ男といった感じで、出てくる男性陣はどうしようもないヤツばかり。特に、優しいインテリを装って女を食い物にする宝田明の胡散臭い芝居が良かったです。

実家の土地が2年後に開かれる東京オリンピックのために用地買収されるという噂をアテにして、財産のことばかり考えている下世話な兄姉たちと比べて、四女の司葉子と五女の星由里子はとても可愛らしく描かれています。自分が好きな夏木陽介を姉に紹介して反応を見ようとする妹。そんな妹の気持ちを察して、エリートサラリーマンとの結婚を選択する姉。特に好きな感情もなさそうなのに、1回の見合いだけで嫁ぐ決断をする女性像には時代を感じますが、彼女たちなりに誰の嫁になるのかという"女の座"をめぐる争いをしていました。茶目っ気のある星由里子も捨てがたいけど、やっぱり司葉子の美しさが絶品です。自分勝手な実子たちと誠実な嫁といった大家族の人物配置は「東京物語」を想起しました。あと、成瀬作品に頻出するモチーフである"交通事故死"が本作でも発生。一説には、成瀬監督の親族が交通事故で亡くなった過去があるのではと言われていますが、真相はどうなんでしょうか。

『「乱れる」』「乱れる」(1964) U-NEXTで成瀬巳喜男のメロドラマの名作を観ました。戦時中、山形から学徒動員で清水にやって来た際に見初められて18才で酒屋の長男…