「野獣死すべし」(1980)

ゴア描写多めの犯罪映画をU-NEXTで観ました。

監督はルチオ・フルチ。予告編はコチラ。

イタリア南部の港町ナポリを拠点に闇タバコ・闇アルコールの密輸をしている組織の幹部ルカ(ファビオ・テスティ)。この日も兄ミケーレと一緒に密輸船で闇取引をしようとしていたところ、現場に警察が待ち伏せしていて取引は中断。どうやら組織内に内通者がいるようで、ミケーレとルカの兄弟は組織内で反目しているシャリーノを裏切者だと目をつけます。若手の幹部仲間であるペルランテと共闘してシャリーノへの報復を検討しますが、しばらくして警察を装った一味の銃弾を受けてミケーレが死亡。復讐で頭が一杯のルカの暴走を不安視する忠告を無視して行動する夫に嫌気が差して、可愛い一人息子と一緒に別居を申し出る妻。ルカは復讐相手のシャリーノ宅を襲撃するも、逆に手下に捕まってしまいます。「オレが裏切者ならとっくにお前を殺している。相手を間違えるんじゃねえ」と言われてボコボコにされて戻って来たルカの自宅には、夫が心配でたまらない妻が息子を連れて帰って来ていました。

やがて、ミケーレを殺害したのはマルシエーゼ(マルセル・ボズフィ)というマルセイユが本拠地のギャングのボスであることが発覚。マルシエーゼはルカたちの密輸ルートで麻薬をナポリに流通させて市場を独占しようと企んでいました。密輸組織の主要幹部を数名射殺した上で、ルカと自宅爆破の難を逃れたペルランテを呼び出して、儲けの半分をやるから密輸ルートを利用させろという協定話を持ち掛けてきます。要求に応じないと組織は全滅させられます。ただ、フランスのハゲ散らかした野郎に縄張りを荒らされたくない組織の幹部たちはマルシエーゼを始末することで意見が一致。しかし、敵陣が一足先に攻撃してきて、ほとんどの幹部が死亡。もう一度協定に応じるように強要してきたマルシエーゼはルカの妻を拉致。愛する妻の命を守るために、ルカは単身で敵の待ち受ける場所に向かって行くのだが・・・というのが大まかなあらすじ。

原題は「Luca il contrabbandiere」。”密輸人ルカ”といった意味です。仲間に裏切られた主人公ルカがリベンジをするシンプルなストーリー。風景や人々、ソリ競馬レースやセリエAの試合シーン等、ナポリを感じる映像多め。幹部連中を同時進行で粛清する場面やBGM等に「ゴッドファーザー」の風味が漂っています。また、「フレンチ・コネクション」で殺し屋役だったマルセル・ボズフィが悪玉のボスであるマルシエーゼを演じています。そこに味付けされたルチオ・フルチ流の人体損壊描写がこれでもかと炸裂。ルカに温泉源に落とされる刺客。麻薬売人の美女を火あぶりにするマルシエーゼ。シャノールに撃たれるペルランテ。マルシエーゼに撃たれるシャリーノ。爆破で顔がグチャグチャになるペルランテの愛人。どれもグロいです。もちろんエロ要素もあります。妻を拉致した証拠としてルカにパンティーを送りつけるマルシエーゼ。手下に妻を凌辱させている様子を電話口で聞かせる鬼畜の所業を披露。

驚いたのは物語の締めくくり方。孤立したルカが単身で復讐を遂げるのかと思いきや、犯罪組織の現役から足を洗ったナポリの老人たちが終盤になって突然動き出します。隠居してTVばっかり見ていた老人が実はナポリの顔役で、彼の昔の仲間たちが個々の武器を準備して集結。ルカが妻を取り戻す取引現場にいろんな所から次々と現れて、マルシエーゼの手下を皆殺し。マルシエーゼだけを生き残らせて、最後はルカに退治させます。密輸は違法行為ですが、20万人のナポリの一般市民がその密輸業で生計を立てている現実があります。その組織がほぼ壊滅されてしまったため、部外者の手で故郷のナポリを麻薬漬けにさせないために、今でも影響力を持つ裏ボスが先陣を切って戦う展開はかなり胸アツ。悪党なりの正義と郷土愛で不思議な感動を味わえる逸品なので、安直な邦題がもったいない限り。撮影中に予算がなくなって、実際の密輸組織に撮影協力をしてもらったエピソードもあるそうです。