「超音ジェット機」(1952)

ジェット機開発をめぐる家族のお話をAmazonプライムビデオで観ました。初見。

監督はデヴィッド・リーン。予告編はありません。

1943年、第二次大戦中の英国。空軍パイロットのトニー(ナイジェル・パトリック)が婦人部隊所属のスーザン(アン・トッド)と結婚。スーザンの父ジョン(ラルフ・リチャードソン)は航空業界の大物実業家で、超音速ジェット機の開発を秘密裏に実行していました。ある日、父に言われてパイロットを目指していたスーザンの弟クリス(デンホルム・エリオット)が単独飛行中に操縦ミスで墜落死。息子の葬儀をさっさと終えて、またジェット機開発を再開しようとする父。やがて、戦争が終るとともに、義父ジョンの要請を受けてテスト・パイロットになったトニー。弟を亡くしたスーザンは大反対。父が開発中の新型機プロメテウス号は音速(マッハ1)を超える速さが出る設計。ただ、"音速の壁"を突破した時、機体がどうなってしまうのかは、やってみないと分かりません。トニーの子をお腹に宿していたスーザンは、トニーのテスト飛行挑戦をやめてほしくてたまりません。

人類の文明の進歩を促す大仕事とはいえ、身内の生命をも巻き込んで危険な開発作業に邁進する父とは距離を置くようになり、トニーがテスト飛行している時は精神が落ち着くことのない時間を過ごすスーザン。そして、いよいよテスト飛行の日、プロメテウス号が音速に近づくと、機体に異変が発生。プロメテウス号はトニーを乗せたまま、墜落してしまいます。弟だけでなく、最愛の夫までも失ってしまったスーザン。ジョンお父さんはといえば、トニーの死そっちのけで、今後の開発に生かせるヒントはないかと、墜落する前にトニーが交信していた内容をチェックし始めます。スーザンは悲しみに打ちひしがれながら男の子を出産。ジョンは音速突破の野望を捨て切れず、今度はトニーの戦友フィリップを使って、試作機第二号のテスト飛行を命じます。そして、ついに音速突破に成功。これまで亡くなった息子たちの雪辱のためになりふり構わず作業に打ち込んでいた父の後ろ姿を見て、父の孤独をようやく理解するスーザンであった・・・というのが大まかなあらすじ。

原題は「The Sound Barrier」。"音速の壁"の意味。第二次大戦当時は航空機製造においては英国が世界の最先端を行っていたようで、音速突破を目指す開発競争が行われていました。実際に世界で初めて音速を突破したのはアメリカのチャック・イェーガーで、その辺の話は「ライト・スタッフ」(1983)でヒロイックに描かれているということは置いといて、本作は、音速突破に執念を燃やす架空の航空会社オーナーと、テストパイロットとして命を懸ける義理の息子、オヤジとダンナのせいで翻弄される娘の物語となっていました。当時の英国製航空機がバンバン出てくるので、実写の迫力があります。プロメテウス号として使われている戦闘機は、業界大手スーパーマリン社のスイフト。同じく業界大手の1社だったデ・ハビランド社のオーナーの息子が音速を目指すテスト飛行中に死んだ史実も元ネタになっているとか。

戦闘機開発という特殊な題材ですが、ベースにあるのは仕事と家庭をめぐるオーソドックスなホームドラマで、無難にまとまっている映画でございました。英国アカデミー賞では作品賞、アカデミー賞では録音賞を受賞しているようです。トップクレジットは、仕事のためなら家族の犠牲も厭わない父親を演じたラルフ・リチャードソン。愛妻の心配を知りながらも音速突破したいパイロットの夢に挑戦する夫のトニーが準主役で、実質的な主役は、弟と夫を亡くして未亡人となるスーザンを演じるアン・トッド。当時45才なので、役柄よりも老けています。人気女優であり、当時はデヴィッド・リーンの三人目の妻(本人も三回目の結婚)だったこともあってのキャスティングなのでしょう。仕事に賭ける男たちを見守るしかない、一昔前の女性像で、確執があった父とも最後は和解する役どころ。あと、序盤で死んでしまう弟クリス役の俳優さんは「インディ・ジョーンズ」シリーズでブロディ教授を演じていた俳優さんでした。

『「ホブスンの婿選び」』「ホブスンの婿選び」(1954) デヴィッド・リーン監督のコメディ映画をU-NEXTで観ました。のちの超大作路線に行く前の小品。予告編はコチラ。マンチェ…

ameblo.jp

超音ジェット機（字幕版）

Amazon（アマゾン）