「アメリカ国籍は持ってるけど、ずっと日本で生活してきたから、アメリカ税申告なんて関係ない」と思っていませんか?
実はそれ、間違ってるんです。
アメリカは市民権ベースの課税制度を採用しており、アメリカ市民やグリーンカード保持者は世界中の所得に対して申告義務があります。たとえ日本で納税していても、アメリカへの税申告は別問題です。
この記事では、**「アメリカ国籍を持っているけど、今まで一度もアメリカに税申告をしていなかった人」**が取るべきステップをわかりやすく解説します。
日本人家庭に生まれた私も、出生地がアメリカだったというだけで、アメリカ国籍を保有しています。ちなみに、こういう境遇の人のことを"Accidental Citizen"と呼ぶらしいです(ちょっとした事故、みたいなニュアンスが表現されてて面白い)。
最近になって、アメリカ税申告が必要なことを知り、手続きのミスが生じるリスクを承知で、弁護士や代行業者に頼らずに自分で手続きを行いました。せっかく色々と情報を集めたので、記事にしてみることにしました。
※ただし、皆さまの手続きに関しては、一切の責任を負いかねます。不安な点があれば、専門家のサポートを受けることを推奨いたします。
✅この記事の対象読者
- アメリカ生まれだが、幼少期から日本在住
- アメリカ国籍を保持している(パスポートを持っている)
- 日本で働き、生活している(給与所得あり)
- アメリカへの税申告をしたことが一度もない
1. なぜ申告が必要なのか?
アメリカでは、国籍(citizenship)や永住権(green card)に基づいて税申告義務が課されます。たとえ日本で暮らしていても、
- 日本の給与
- 日本の投資利益や利子
- 日本の不動産収入
2. 申告していなかった場合のリスク
過去に一度も申告していない場合、次のようなリスクがあります:
- IRSからの罰金や延滞利子
- 海外口座(FBAR)未申告による高額ペナルティ
- 将来のパスポート更新や出入国に影響する可能性
- 市民権放棄時のExit Tax(出国税)への影響
ですが、ご安心ください。そうした「未申告状態」を是正するための特別措置が存在します。
3. 救済制度:Streamlined Filing Compliance Proceduresとは?
アメリカ国外に長期間居住し、意図的ではなく申告を怠っていた人向けに、IRSは特別措置「Streamlined Filing Compliance Procedures(簡易申告手続き)」を用意しています。
✅主な条件
- アメリカ国外に居住していた(少なくとも過去3年のうち330日以上/年)
- 故意ではなく、過失による未申告
- 必要な申告書類を揃えて提出する
✅提出するもの
- Form 14653(簡易申告手続きの該当者であること、違反が故意ではないことの宣言、紙で提出)
- 過去3年分のForm 1040とそれぞれに紐づいたForm、数種類(所得税申告、紙での提出)
- 過去6年分のFBAR(海外口座報告、ウェブ上で提出)
(参考)U.S. taxpayers residing outside the United States
4. 実際の手続きステップ
ここからは実際のステップを見ていきます。
私が実際に申告した際のケース(下記の条件)を例に取って、解説します。
- アメリカ国籍、SSN(ソーシャルセキュリティナンバー)を保有する
- 日本にずっと住んでおり、日本の企業で働いている
- 株式の取引を行っており、証券口座を保有する
🔹Step 1:必要な書類や情報を準備・整理する
- 所有する全ての銀行口座、証券口座、確定拠出年金口座の残高、過去6年分(各年の最高額)
- 日本の源泉徴収票、過去3年分
- 銀行から得た利子、過去3年分
- 株式取引の履歴(売買、配当、税金)、過去3年分
- 各年の平均円ドル為替レート
※各年の平均為替レートを使って、ドルに換算した金額を申告する(Yearly average currency exchange rates)。- 2019年:109.008
- 2020年:106.725
- 2021年:109.817
- 2022年:131.454
- 2023年:140.511
- 2024年:151.353
- SSN(ソーシャルセキュリティナンバー)
- 税申告用の各種Formを、IRSのウェブサイトからダウンロード、過去3年分(Forms, instructions & publications)
※各年ごとにフォーマットが用意されている。
※それぞれのFormの記入ルールなどを記載したファイルもダウンロード可能。
※人によって必要なFormの種類が異なるため、詳しくは各自で確認する必要がある。私が使用したFormは下の8種類。- Form 1040(所得税申告のベース)
- Form 1040 Schedule 1(日本での給与に対する控除をForm 1040に反映)
- Form 1040 Schedule B(銀行の利子、株の配当を申告)
- Form 1040 Schedule D(株式売買に伴うキャピタルゲイン、または損失を申告)
- Form 1116(日本で得た利子、配当、キャピタルゲインに対する控除)
- Form 2555(日本での給与に対する控除額の申告)
- Form 8949(株式売買の収支報告
- Form 14653のテンプレートを入手、あるいは作成
※こちらのFormは、IRSから公式なテンプレートが提供されているわけではないので、下記の必要項目を確認した上で、Web上でテンプレートを探すか、自分で作成する。
※必要な項目は、こちらを参照。
🔹Step 2:過去3年分のForm 1040を作成する
- 通常の税申告フォーム(Form 1040)や、それに付随する各種Formを、過去3年分記入する
- 記入する順番は自由だが、各Formでの記載内容を最終的にForm 1040に転記する形となるので、以下のような順番で記入を進めるのが効率的
- Form 1116 → Form 1040
- Form 2555 → Schedule 1 → Form 1040
- Form 8949 → Schedule D → Form 1040
🔹Step 3:過去6年分のFBARをオンラインで提出
- 専用サイト(Individuals Filing the Report of Foreign Bank & Financial Accounts)から提出
※「File Online FBAR」を選択
※申告が遅れた理由を記入する欄には、"Streamlined Filing Compliance Procedures."と記入 - 日本の銀行口座等の情報を、1つでも報告漏れしないよう注意
🔹Step 4:Form 14653を作成
- 「過失であり、故意ではない」ことの説明を、該当箇所に記入
(参考)私が実際に記入した内容
I was born in the United States and therefore hold U.S. citizenship by birth. However, I have lived outside of the United States for most of my life and have been a resident of Japan. Until recently, I was unaware that U.S. citizens are required to file annual income tax returns and foreign bank account reports (FBAR), even while living abroad and earning income outside the United States.I had no intention to evade taxes or conceal assets. As soon as I became aware of my obligations, I took immediate steps to come into compliance through the Streamlined Filing Compliance Procedures. I respectfully request relief from penalties and confirm that my failure to file was non-willful.
- その他必要事項を記入
🔹Step 5:IRSに郵送で提出
- Form 14653の原本、過去3年分の税申告書類(Step 2で用意したもの)、Form 14653のコピー3部(各年の申告書類の後ろに添える)、全ての書類をそろえて、指定された下記のIRSの住所へ郵送する
- Internal Revenue Service
3651 South I-H 35
Stop 6063 AUSC
Attn: Streamlined Foreign Offshore
Austin, TX 78741
- Internal Revenue Service
- EMSなど、トラッキングできる方法で送付するのが望ましい
5. 専門家への相談は必須?
正直に言うと、英語・税法・国際税務すべてに精通していない限り、専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。
- 米国税理士(CPA)
- 米国税務を扱う国際会計事務所
- 海外居住者専門の税理士
費用はかかりますが、罰金リスクを回避し、確実な提出ができます。
6. 今すぐ行動すべき理由
Streamlined手続きは突然終了する可能性もあります。すでに複数回の税制改革が行われており、「知らなかった」は免罪符にはなりません。また、将来的に:
- グリーンカード申請や市民権放棄(renunciation)
- アメリカへの相続や投資
- 子どもへの市民権継承
などを考えている場合にも、税務の履歴が重要になってきます。
まとめ
対象: アメリカ国籍保持者(日本在住・未申告)
問題点: 世界所得の申告義務、FBAR義務
解決策: Streamlined Filing Compliance Procedures
提出内容:過去3年の税申告、過去6年のFBAR、誓約書を含むForm 14653
推奨: 専門家のサポートを受ける
🔗参考リンク
- IRS公式「Streamlined Filing Compliance Procedures」:Streamlined filing compliance procedures
- IRS公式「U.S. taxpayers residing outside the United States」:U.S. taxpayers residing outside the United States
- IRS公式、各種Formのアーカイブ:Forms, instructions & publications
- IRS公式「Yearly average currency exchange rates」:Yearly average currency exchange rates
- FBAR提出ポータル(BSA E-Filing):Individuals Filing the Report of Foreign Bank & Financial Accounts