モアナと伝説の海 | ショコラのブログ

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一昨年の秋冬くらいに情報が出て以来、ずっと待ってたディズニープリンセス映画最新作、
モアナと伝説の海を観に行ってきました。
以下、ネタバレ盛りだくさんの感想なので、嫌な方は戻ってください。
 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
①リアルな海
 
まず、海の描写が物凄くリアルで美しかったです。
珊瑚礁の浅瀬から深い沖、夜の暗い海や嵐で荒れ狂う姿と、時間帯や場所、天候によって表情を変える海が凄くリアルでした。
 リアルなのは映像美の意味だけでなく、自然の厳しさもそうです。
モアナは海に選ばれ、愛される少女で、海は愛らしい生き物のように幼い彼女と戯れ、成長してからもいろんな場面で助けてくれるので、海もまた、1つのキャラクターのようです。
しかし、自然の厳しさは容赦なく、若い頃にモアナと同じく海に出ようとした彼女の父から親友を奪っています。
また、モアナも初めて船を漕ぎ出して珊瑚礁を超えようとした途端に、風と波にあっさりと船をひっくり返され、危うく溺れかけてしまいます。
再度、航海に出てからも嵐になれば容赦なく荒れ狂う波が彼女を襲い、自然の恐ろしさを感じます。
本物の自然は美しい反面、恐ろしく、自然の脅威の前では人間は小さな存在。
たとえ「海に愛された少女」という内容の作品でも、海という自然は決して生易しく描かれてはいません。
だからこそ、モアナが覚悟や勇気を持って、自分の意思で航海に出ようとする姿がより魅力的になるのだと思います。
 
 
②モアナと家族
 
 珊瑚礁の外に行き、自分の世界を広げたいモアナに対して反対する立場が彼女の父で村長のトゥイです。
彼はモアナが幼い頃から、危険な外の世界より安全な島にいる方が幸せだと教えてきました。
前述した通り、モアナと同じように航海に出ようとした若い頃、親友を海で亡くしたために海の恐ろしさも身をもって知っています。
娘を親友のように失いたくない、まして女神テ・フィティの心が失われて以来、世界は壊れ始め、海は昔より危険なものになっている。
娘には自分の跡を継ぐ村長として、皆を導きながら安全に幸せに暮らしてほしい、そんな親心から反対するし、母のシナもそんな夫の気持ちを理解して、「人は出来ると思っても出来ない事もある。」と娘をたしなめます。
 一方で、外に行きたいモアナの理解者は祖母のタラです。
彼女は変わり者として、村の民から変な目で見られる事もあるようですが、「それでも好きな事をする。」と彼女らしく生きています。
タラはモアナに、テ・フィティの心が盗まれて世界が壊れてきている事、海は幼いモアナに失われたテ・フィティの心を託し、成長した彼女にはそれを女神の元に返して世界を救う使命がある事、そしてモアナ達の村の先祖は海を渡る民族だった事を伝えます。
モアナの外への思いを理解し、使命を果たすように促すタラですが、それでいて「こうしなさい。」というような事はしません。
海に出ようとしたモアナが危険な目に遭い、もう外を目指すのは止めると言った時も答えはモアナ自身に委ねています。
亡くなる間際、タラは形見のペンダントごとテ・フィティの心をモアナに渡しますが、旅立ちを決めたのはあくまでモアナ自身の意思です。
「自分の心の声に気付いたなら従いなさい。」という祖母の教えを胸に、モアナは海に出るのです。
 ちなみにこのシーンは音楽の効果もあり、かなりの名シーンになっています。
息を引き取る間際の祖母の意思を受け、急いで航海に出る準備をするモアナ。
そこに駆けつけたのは今まで外に行くのを反対してきた母のシナです。
目に涙を浮かべて娘を抱きしめ、見送る母。
「私は死んだらエイに生まれ変わって戻ってくる。」と言っていた通り、青く光るエイの幻影となって夜の海を照らし、亡くなった後も孫を導こうとする祖母。
家族の愛に満ちた旅立ちのシーンとなっています。
 
 
③マウイのタトゥーと、タマトアの飾り物
 
 モアナは半神半人の青年マウイと出会いますが、彼はテ・フィティの心を盗んだ張本人でした。盗んだ直後、炎の魔物テカァに襲われ、心を海に落としてしまい、それを海が幼い頃のモアナに託したのでした。
自分のせいで世界が滅びかけているのに、「あれは人間のためにやったんだ。」と言ってのけ、一緒に返しに行こうと言うモアナに対して「弱い人間と死にに行く気はない。」と拒否します。
 何千年もの間を生きてきた彼は、島を引き上げたり太陽を捕まえたりと、自分がいかに人間のためにいろんな英雄的な事をしてきたか、その武勇伝の絵のタトゥーで全身を覆い、誇らしげに見せつけます。
(面白い事に、ここに描かれている小さいマウイのタトゥーは彼の良心を表しており、時折、彼の意にそぐわない様子を見せます。)
 しかし、少々傲慢で自身の武勇伝に酔っているかのようなマウイの心理には、深いコンプレックスが根付いています。
彼は元々、人間の捨て子であり、神によって力を与えられた存在でした。
様々な生き物に変身したり、怪物と戦う武器にもなる大きな魔法の釣り針を神に与えられたマウイは、自分を捨てた人間の愛情が欲しいがために様々な武勇伝を築き上げ、テ・フィティの心を盗んだのも人間に愛されるために力を得ようとしたがゆえの行動でした。
 
 そんなマウイの因縁の敵が、深海の魔物の国に棲む巨大な蟹の怪物タマトアです。
彼はかつてマウイと戦い、足を1本切り取られています。
さらに、マウイが海に落とした神の釣り針を拾い、自身の甲羅に付けてコレクションの一部にしているため、モアナとマウイは釣り針を取り戻すために彼の元に訪れます。
コミカルな台詞とグラムロックをモチーフにしたといわれる歌が魅力的なタマトアですが、巨大なハサミで人形のようにモアナの体を持ち上げたり、釣り針の変身魔法が上手く使えなくなったマウイを散々痛めつけ、捕食しようとする様はまさに怪物そのもの。
 そんなタマトアにもマウイ同様、コンプレックスがありました。
今でこそ巨大な体と青紫の体色を持つ彼も、昔は茶色くて小さく地味な蟹でした。
巨大に成長した彼はマウイの武勇伝のタトゥーを真似て、甲羅や足の上部等を大好きな光物で飾り付けており、そんな自身の姿を「今はゴージャスになれて幸せ。」と誇っています。
 全身の武勇伝タトゥーで捨て子である過去を覆っているマウイと、甲羅の光物で地味だった過去を覆うタマトア、とても似た者同士です。
 タマトアは「本当の自分になれ、なんて戯言信じるな。」と、英語版では「おまえ(モアナ)の婆さんは自分の心の声を聴いて本当の自分になりなさいと言ったようだが、おまえの婆さんは嘘つきだ。」と言ってのけ、今作のテーマである「本当の自分」というものを全否定します。
もはや、今の光物を纏った姿が彼の本当の姿であり、自身をカスタマイズした今は地味だった過去など捨ててしまったのでしょう。
 マウイも、釣り針を失ったら自分はただの捨て子だとして、炎の魔物テカァとの戦いで釣り針にヒビが入った時にはモアナに辛く当たり、彼女の元を去っていきます。
釣り針による神の力のない本当の自分を彼は受け入れる事ができなかったのです。
 
 
④自分は何者か。
 「本当の自分、心の声」というものが今作のテーマになっていると思います。
テカァとの戦いで、モアナの判断の結果として釣り針はあと1回攻撃を受けたら折れるようなヒビが入り、マウイに責められて去られ、仲間を失った事でモアナは傷つき、絶望します。
何故、自分が海に選ばれたのか分からないし、自分は相応しくなかったのかもしれないと、託されたテ・フィティの心を海に戻し、海は止めるでもなくそれを受け取ります。
 そこに現れたのが祖母タラの魂でした。彼女は優しく孫娘を抱きしめ、慰めます。
村に帰るなら一緒に行くよ、と諦める選択肢も彼女に提示します。
一方でこんな事を歌って聞かせるのでした。
「私はある少女を知っている。家族はその子を誇りに思う。遠くまで旅をして苦しんだから、今までの事が導いてくれる。おまえは誰か。」と。
モアナは改めて自分を見つめ直します。
「私は、島を愛する娘、村長の娘。今まで旅をして分かってきた、私を呼ぶ声が聞こえる。」
そこに見えたのは、かつて海を渡っていた先祖の魂でした。
自分のルーツを知り、自分達と先祖と海の繋がり、自身の海と新しい世界への思いを改めて思い出す。その上で、自分はなぜ海に出たのか。海に選ばれたから?祖母の遺言を受けたから?自分は自分の意思でここまで来たんだと思い出したモアナには、もう迷いはありません。
海に戻したテ・フィティの心を拾いに潜ります。たった1人でもテカァに立ち向かい、心をテ・フィティに返して世界を救おうとするのでした。
自分の本当の姿を見つめ直し、自分で決めた事は誰かに理由を押し付けずに自分で貫こうとするモアナの強さを感じました。
 たった1人でテカァの猛攻に立ち向かうモアナの元にマウイが戻ってきて、一緒に戦ってくれます。
劇中では描かれていませんが、モアナの側を離れてからマウイも彼なりに考えてきたのでしょう。
釣り針が折れてしまっても自分は自分だと、あの時は受け入れられなかった事を彼なりに考え直し、1人で戦うモアナを放っておけず、彼もまた本当の自分を見つめ直して、自分で決めて来たのでしょう。
 そして、炎の魔物テカァの正体は心を失って暴走する女神テ・フィティでした。
テ・フィティもまた、本当の自分を見失っている存在。
テカァを倒すのではなく、心を返して本当の姿に戻してやる事が必要となります。
荒れ狂うテカァにひるまず、モアナは真っ直ぐに立ち向かっていきます。
テ・フィティの本当の自分をきっと取り戻して救ってみせるという強い覚悟を感じるシーンです。
そんな意思が伝わったのか、荒れていたテカァの動きと表情、炎の熱が和らぎ、心を返すと元の女神の姿に戻りました。
本当の自分というものを懸命に伝えようとするモアナが世界も、女神の心も救った瞬間でした。
 その後、マウイは心を盗んだ事をテ・フィティに謝りますが、これは彼が自分の過ちを認め、過ちを犯した自分も受け入れる事が出来たためだと思います。
そんな彼に、テ・フィティは折れた釣り針を元に戻してあげますが、釣り針に依存せずに本当の自分を受け入れる事が出来たからこそ、改めて神の力を使うのに相応しいとして、成長したマウイを祝福してくれたのでしょう。
 
 
⑤新しいディズニープリンセス
 モアナは外の世界を見に行きたいという願いを抱いており、誰に反対されても自身の強い願いを貫こうとするところは、アリエルやジャスミン、ラプンツェルと共通しています。
そして、家族の期待に応えたい、自分の役目を果たしたいと思う反面、自身の心に従いたいという葛藤はエルサやムーランと共通しています。
 しかし、彼女の境遇において特殊なのは、その肩に世界の命運がかかっているという事でしょう。
次の村長として島の民と共にあり、守っていきたいという思いと、珊瑚礁の外に行き、自身の世界を広げたいという彼女の思いは、テ・フィティの心を返して世界を救う事で島を救う事にも繋がり、平和がもたらされた世界でモアナは家族や島の民を率いて、かつて先祖がしたように航海に出る結末によって、両方の思いを叶えてみせたのです。
 また、モアナは日本のジブリヒロインを参考にしたと公式発言がありますが、自然と共に生きる少女が世界を救うという点にナウシカやシータとの共通点を感じます。
 纏めると、白雪姫やシンデレラの時代から描かれてきた「辛い状況でもそう簡単には塞ぎ込まず、夢を見る強さ」、リトルマーメイドの時代から描かれてきた「外の世界への憧れと行動力」、アナと雪の女王やムーランから描かれてきた「本当の自分を求める生き方」、ジブリヒロインの自然とのあり方を受け継ぎ、彼女ならではの物凄い勇敢さとアクティブさを携え、モアナという新しいヒロインが誕生したのです。