「イギリス人は『理想』がお好き」 緑ゆうこ著 紀伊国屋書店


愛犬コンシェルジュ~お散歩仲間の立ち話~-イギリス人は理想がお好き


第9章 子供は外、犬は内 

     理想の人犬関係


BBCテレビの長寿番組「One Man and His Dog」は、羊飼いと牧羊犬のコンテストだが、この番組タイトルの「Man(男)」に文句をつける人もいる。羊飼いには女性もたくさんいるし、羊の群れをコントロールする仕事に欠かせない牧羊犬のトレーナーには女性も多いからだ。

(中略)

番組名は今日に至るまで「男」のままになっていて、要するになんとしても「イギリス人の理想の人犬関係」の第一の基本は、飼い主が男でなくてはならないのだ。なぜかというと、男とは孤独で家族の女どもには理解されない存在であり、犬しか友達がいないからだ。


第二に、理想の犬とは人間以上の人間である。従って、「人間をめざしている」状態、つまりまだフルの人間に到達していない子供よりも、犬は高等な人間なのだ。だから、たとえばお子様お断りの大人向けスポーツクラブに堂々と犬を連れてくる人を筆者は何人か知っている。イギリスでは犬の方が子供より行儀が良いのが普通だから、まわりも文句は言わない。更衣室の中にまで犬がついてくるのには閉口するが。(あ、汚い、と思ってしまうのは、筆者が日本人である証拠だ。)

(中略)

少し考えれば分かることだけれど、自分の思い通りにならない他人と付き合うより、犬をしつけて付き合う方が簡単に決まっている。犬を理想の親友に仕立ててしまったら、それ以上忠実で愛情深く、人の性格や行動の批判もせず、しかも忙しがらないでいつでも付き合ってくれる人間の親友がいるわけがない。


当然のことながら、こんな単純な真理を思いつくのはイギリス人の男だけではない。日本人の男だってそのくらいは考えるだろうが、いかんせん、日本では犬を飼う環境が整っていない。なにしろイギリスは犬を飼うには最高の国なのだ。

(中略)

これが犬天国と日本の一番のギャップだが、イギリスではご存知のように家の中で靴を脱ぐ習慣がないから、犬も人間も出入り自由。犬はベッドルームだってキッチンにだって出入りする。プードルだってブルドッグだってシェパードだってゴールデン・レトリーバーだって、みんなウェルカムだ。当然、犬小屋なんて不必要なものはなくて、犬も人も一緒に家の中で寝る。イギリスの夫婦は統計によると3組に1組が離婚するけれど、人と犬は連れ添ったら一生添い遂げる。動物愛護どころではない、やはりたかだか5、6年のペットブームでは太刀打ちできない犬の愛し方だ。(太刀打ちできないで、良かった・・・。)