ぼくの犬は無口です 伊藤英治編 古川タク絵 岩崎書店刊
●「ぼくの犬」 小泉周二
おはよう
と言うと
アーウ
と答えます
言ってくるよ
と出かけるときは
じっと見ています
ただいま
と帰ると
アーウ
と言います
ぼくの犬は無口です
●「なぜ?」 工藤直子
べんきょうは
なぜ しなくてはいけなくて
ひろった犬は
なぜ すてなくては いけないのかなあ
あの日 犬とわたしは 目があった
目があえば カナブンでも毛虫でも 見すててはいけない
あれは 生き物の合図だから
だいて帰るあいだだけ 犬もわたしもわらった
「せめて食べさせてから すてましょう」
とおとながいった
いけない それは断じてやさしさではない
愛ではない
-おなかをパンパンにふくらませて
しっぽをふっていた子犬よ!-
その夜わたしは世界じゅうと 他人になった
歯は
なぜ みがかなくてはいけなくて
ひろった犬は
なぜ すてなくてはいけないのかな