「げげげの鬼太郎」の作者、漫画家の水木しげる著、「水木しげるの憑物百怪」に、「人面犬」が紹介されています。


文化7年(1810)6月8日、江戸は田多町の紺屋の裏で、牝犬が子を産んだ。


が、奇妙なことにその3匹の子犬の中の1匹の顔が人間にそっくりの「人面犬」であった。


それをいち早く聞き込んだある興行師が、さっそくその「人面犬」を東両国で見世物に出したところ、これが大人気となり、毎日押すな押すなの盛況となった。


(中略)


人面犬はそれからほどなくして死に、その後も3,4日は線香を焚きながら興行していたという。


おりしも、6月15日から、近くの本所回向院での京都嵯峨のお釈迦様の御開帳が行われ、ちょうどその時期と重なり、おびただしい参詣の人が見物に訪れた。


短い「人面犬」の興行期間であったが、なかなかの利益を得たとのことである。


愛犬コンシェルジュ~お散歩仲間の立ち話~-憑物百怪


「恐怖の人面犬」 小暮正夫著 岩崎書店刊


朝日ジャーナル(1990年1月5日-12日号)に「人面犬=ウワサのネットワーク」という記事が掲載されました。


人面犬のうわさの代表的なパターンは次のようなもの。


レストランの裏で汚い一匹の犬がゴミをあさっていた。シッシッシッと追いはらおうとすると、その犬がくるりとふり返って「なんだよ」と一言しゃべった。なんとそれは胴体は犬、顔は人の人面犬だった。


京都の金閣寺の池のまえで一匹の犬が座っていた。お坊さんが口笛を吹いて呼ぼうとすると、くるりとふり返って、「ほっといてくれ」と言った。


東京方面へ向かう東名高速道路の追い越し車線を、柴犬ぐらいの犬が猛スピードで走っていた。おどろいて見ていると犬がクルリとふり返りニヤリと笑ったが、それは人の顔をしていた。運転手はビックリして事故になった。このような事故が続出したため、県警がしらべたら、人面犬は本当だったらしい。


人面犬は筑波大がDNAの実験中に作った生物で、緑色のウンコをするらしい。


以上が基本パターンで、バリエーションとして他に「6メートルは軽くジャンプする」「時速130キロ以上で走る」「ムササビのようにビルからビルへ飛ぶ」「汚く長い髪で、老人のような顔」などがあります。


共通点として、人面犬がさいごに、「ほっといてくれ」「勝手だろ」「なんだ、人間か」「オレの自由だ」といった捨てゼリフを残すところ。



5月頃からうわさが立ち始め、マスコミに取上げられるようになったのは9月以降、その間に「人面犬は日本に6匹いる」というように変化していました。


うわさは拡大再生産されていきます。そこには、意識的に話をおもしろくエスカレートさせていこうという意図が見えます。


人面犬の目は五木ひろしに似た目で、友人が道で肉まんを食べていると、じっと見つめて、「オレにもくれ」と言ったらしい。




古いことわざにいわく・・・


一犬誤って、百犬吠ゆる


一犬影に吠ゆれば 万犬声に吠ゆ


追記


昨今のブログ炎上や学校裏サイトでのイジメといったものも、おもしろがって話をエスカレートさせていく点では、この人面犬騒ぎと同じです。