「冬の犬」 アリステア・マクラウド著 新潮社刊
犬はどんどん力がついて自衛心が強くなってきていて、よその人はわが家の庭に入ってくるのをためらうまでになっていた。
そして近所の二人の子供が噛みつかれ、学校への往き帰りにわが家の前を通るのを怖がった。
また、この犬がほかの犬たちの分を横取りするほど繁殖にいそしんで、夜になるとほかの犬より遠くまで出かけていっては雌を襲ったり、自分より小さい犬と雌を争って怪我を負わせるといった反感が、あの界隈ではあったのかもしれない。
この犬が子孫をつくって好ましくない性格を遺すのは歓迎できないと思われたようだ。
(中略)
犬が私たちと暮らしたのは短い年月で、いわば自業自得で自分の運命を変えたのだが、それでもまだあの犬は生きつづけている。
私の記憶のなかに、私の人生のなかに生きつづけ、そのうえ肉体的にも存在しつづけている。
この冬の嵐のなかで、犬はそこにいる。耳と尻尾の尖端が黒く、家畜小屋のなかや、積みあげた薪の山のわきや、ポーチの下や、海に面した家のそばで体を丸めて眠っている、あの金色と灰色の混じった犬たちのなかに。