●ファーストライフとエコグルメ


日本の都市生活者の一日はファーストフードに始まり、ファーストライフで終わると言っても過言ではありません。


現代人にとってはオンタイムとオフタイムを切り替えて、ファーストとスローの生活のバランスをとるほうが、現実的と考えられます。つまり、ファーストライフのテクノロジーを有効に活用して、忙しい中からスローライフを過ごす時間を捻出するというようにです。

自分の農場で収穫した食材や地元のワインを家族揃っておいしく料理してもてなすようなスローフードのような店舗運営を真似することは、ファーストフードにはとてもできません。


その代わりにファーストフードは食材の品質を落とさないで安定供給するための産地から店舗までの一貫したシステムと技術で、ファーストライフにおける消費者のエコ・グルメなニーズに応えることができます。

20世紀末にイタリアで始まったスローフード運動は、外食の中にファーストフードとスローフードという二つの対立する概念があることを問題提起しましたが、日本のファーストフードや外食チェーンが生き延びるための選択は、スローフード化ではなく、ファーストライフに対応する本物のエコ・グルメです。

日本の外食産業は近代化と企業化が進んだとはいえ、大多数は零細な飲食店や小規模な飲食業者です。これらの中には、ファーストフードの合理化の原理とは対極の板前の芸術的な調理技術やその土地でとれた旬の素材を売り物にして人気を得ているところも少なくありません。

また、日本人は、ファーストフードとその対極とも言える日本的料理店を同一人物が巧みに使いわけています。昼食をマクドナルドで済ませた若い女性が、夕食は一流フレンチレストランや高級和食料理店でとるといったことも少しも珍しいことではありません。

戦前や戦後の復興期を含め、これまで長い間、日本人の食生活は社会階層による格差があり、庶民の食体験は極めて限られたものでした。


それが、食生活の欧米化によって、食体験を飛躍的に拡大できるようになり、その領域は「和・洋・中華」の全てに広がり、ついには「高級・伝統・名産」などの質的な面にまで発展してきたのです。その結果、20世紀以降の日本人の食生活は世界に類を見ないほどの多国籍グルメ嗜好になりました。

長い間、日本食以外の食体験が乏しかった日本人が、多国籍グルメ体験によって一斉に味覚が開発されたのですから、日本人の食の領域が再び昔に戻ることは考えにくいのです。

伝統的な和食や全国各地の郷土料理の見直しを含めて、多国籍化した21世紀の日本の食文化が生まれてくることでしょう。

そして、もうひとつ考えられるのが、外食と中食の一体化です。


「外食のようにブランドとして差別化された商品を高品質で提供するコンビニ」
「コンビニのように便利で豊富な品揃えの外食チェーン」

この二つの概念が、日常的な食の外部化ニーズに対して最も高い満足を与える新業態のひとつとなると考えられます。