●スローフードの真実


北イタリアの小さな田舎町で始まったスローフード運動は、21世紀の地球上からファーストフードや外食チェーンを絶滅させる社会運動ではないのかといった誤解も生じていますが、その原点である「イタリアのオステリア」は、飲食店のグルメの本物と偽物とを見分けるための啓蒙運動でした。

そもそもスローフード運動は、イタリア北部の小さな町、ブラで始まりました。


ブラの町おこし運動として、ブラの農家が作っていた高級赤ワインである「バローロ」を核とした地域のワインや食品を啓蒙する運動と普及活動が始められました。そして、ワイン・グルメ文化活動をするさまざまなグループが生まれ、1986年に連合組織として「アルチゴーラ」が創設され、イタリアのグルメ文化の発信基地となっていきます。

飲食店分野におけるスローフード運動の考え方をよく表しているといわれるのが、オステリアの再生活動です。


オステリアは、イタリアに古くからある各地の郷土料理や家庭料理をおいしい地元のワインと一緒に提供する飲食店のことで、料理にはその土地で採れたての新鮮な良質素材を使用し、家庭的なもてなしと良心的な値段でそれらを提供する、地味で目立たない店ばかりです。

スローフードのメンバーは、「地方」「伝統」「素朴さ」「もてなし」「控えめな価格」をキーワードに、イタリア全土の飲食店をふるいにかけ、オステリアの魂を継承する店にスポットライトを当てました。

この活動は、「伝統料理を提供し、体と心を休める飲食の場所」という新しいカテゴリーを確立しましたが、それこそが、スローフード運動の目指す外食の方向性と考えられています。


日本で言えば、「地場の素材を使った手作り料理で温かくもてなしてくれる、心癒されるひなびた素朴な温泉宿」といった場所が該当すると思われます。