(55)以心伝心


不動産の仕事をしていたアームガード・オーカーマンは、4日間の出張を終えて、米国カリフォルニア州のキャンベルの事務所に戻ってきました。


愛犬のオスのジャーマン・シェパード「ウォルフガング」は、離婚した夫に預かってもらっていました。


彼の自宅に電話を入れたところ、応答がなかったので、アームガードは、留守番電話に「今日は、お留守のようなので、ウォルフガングは明日、引き取りに行きます」とメッセージを入れました。もう一晩ぐらいなら、文句を言わずに預かってくれると考えたのです。


そして、オフィスから自宅に車を走らせている時、なぜか不意に強烈な不安が押し寄せてきたのです。


アームガードは、途中に立ち寄ったガソリンスタンドから、オフィスや娘のところに電話を入れましたが、何も変わったことはありませんでした。


それでも、アームガードの胸の中のモヤモヤした感覚は、消えませんでした。そして、ハンドルを握って、車をスタートさせると、自分ではない何かが、どこかに連れていこうとしているような感じがして、そのまま、走り続けました。


自宅を通り過ぎて、気がつくと、アームガードは動物愛護協会の建物の前に来ていたのです。


アームガードは、その時に、自分がどうしてそんなところに来たのかが、わかった気がしました。ウォルフガングの身になにか危機的なことが起こっているのです。


愛護協会の人と一緒に、野犬収容所に連絡を入れて、ウォルフガングの特徴を伝え、収容されている犬の中に、該当するものがいないかを問い合わせました。


探し始めて20分後、似た犬がいるという連絡を受けて、アームガードは収容所に向かいました。


そして、そこに収容されていた犬は、まさにウォルフガングだったのです。


施設の係官によると、迎えに来るのがあと1時間遅かったら、ウォルフガングは殺処分されていたというのです。引き取り手が現われないまま、収容されてから72時間(3日)経過した犬は、処分されることになっていたからです。


アームガードは、愛犬を自宅に連れ帰った後、元夫に連絡をとりました。そして、ことの経緯がわかったのです。


3日前、彼が帰宅すると、ウォルフガングの姿がありませんでした。しかし、彼は、アームガードが予定より早く戻ってきて、犬を連れて行ったのだろうと考えて、特に心配もしなかったのです。そして、外をウロウロしていたウォルフガングは、野犬として捕獲され、収容所に連れていかれました。


アームガードは、ウォルフガングが、「助けて!」というテレパシーを自分に送っていたのだと考えています。


(参考資料)

「ドッグ・ミラクル」 ブラッド&シェリー・シュタイガー著 講談社刊


ドッグ・ミラクル