(36)救助犬ベア


2001年9月11日、ニューヨーク・マンハッタンの世界貿易センタービルに、ハイジャックされた2機の飛行機が突っ込んで、2棟の高層ビルが崩壊しました。


後にグラウンド・ゼロと呼ばれることになるビルの崩壊現場に、真っ先に駆けつけて、瓦礫の下の生存者を捜索するために働いた、スコット・シールズ氏の回想録が、「救助犬ベア 9.11ニューヨーク グラウンド・ゼロの記憶」です。


ベアは、11歳のゴールデンレトリーバーで、その活躍によって、後にたくさんの団体からの表彰を受けます。


しかし、ベアは、崩壊現場で働いた後、数ヶ月の間に健康が急速に悪化して、2002年9月23日に息を引き取ったのでした。


スコット氏は、次のように述懐しています。


事件がおきた直後の大事な数時間に、救助犬がもっとたくさん現場にいたら、どうなっていただろうと、何度も考える。もっと多くの命が救えたのだろうか。

(中略)

現場にいた救助の人々が、捜索救助犬チームがいかに有能で役立つかになかなか気づかなかった。捜索救助犬チームができる仕事の質も量もわかっていなかったので、すぐに現場へ入れずに待機させていた。


被災地域への立ち入りをゆるされる人について管理すべきであるのはわかるが、捜索救助犬の仕事がとくに大切で、生か死かのちがいにつながるのは、悲劇のおこった後の数時間なのだ。


これからもおこるであろう災害において、あらゆる復旧作業を最大に生かすためにも、救助犬チームの役割をすべての立場の救助機関は認識すべきである。


この本では、マスコミが取り上げた救助犬チームのエピソードも紹介しています。


あるとき、デトロイトの保安官が発情期のメスのシェパードミックス犬を連れてきて、場ちがいな雰囲気になったことがあった。


捜索救助の仕事中に、オス犬の気を散らしメス犬のおしりを追いかけさせるなどというのは、ひじょうに混乱をまねくため、さけるべきことだとふつうに考えればわかるだろう。しかし、規則や常識さえも状況に対応しないときがあるものだ。


「発情期の犬を現場に連れてくるなんて、この男、いかれている。」わたしもそう思ったのを覚えている。多くの救助員がひどい言葉であれこれ言い、その保安官を立ち去らせた。


しかし、そのシェパードミックス犬が瓦礫の山にあらわれたときほど、落ち込んでいたオス犬たちの多くが、アッというまに立ち直ったことはなかった。


つまり、なにが功を奏するかわからないということだ。害だと思っても、一転して役立つものになりうる。


「救助犬ベア 9.11ニューヨーク グラウンド・ゼロの記憶」 

スコット・シールズ&ナンシー・M.ウェスト著 金の星社刊


ベア