(35)早太郎 (長野県のむかし話)


むかし、静岡県の磐田見附に、見附天満宮という神社がありました。村人はこの神社の神を深く信仰しておりましたが、いつのころからか、化け物が棲みついて、年に一度の祭礼の時に、いけにえとして子どもを差し出させていました。


ある日、一実坊弁存というお坊さんが現れて、「信濃の国の伊那谷、駒ヶ根に光前寺というお寺がある。そこにいる早太郎という犬が、化け物を退治してくれる」と教えてくれたのです。


早太郎は、白毛の体格のよい犬で、一夜で千里を駆けると言われる名犬だったのです。


村人は、信州まで出向いて、お寺さまから早太郎を借り受けてきました。そして、人身御供の子どもの代わりに、早太郎を箱に入れて、差し出しました。


化け物が舌なめずりしながら、箱を開けたとたん、早太郎が襲いかかり、激しい闘いが始まったのです。


次の日の朝、村人は、大きなヒヒの死骸を見つけました。それが、化け物の正体だったのです。


そして、たくさんの傷を負って、息絶えている早太郎も見つけました。命をかけて、化け物を退治してくれたのです。


人々は、早太郎に感謝して、信州の光前寺に般若経600巻を奉納し、供養としました。