(34)山犬の恩返し (徳島のむかし話)
むかし、三好町のあたりに、腕のいい大工がいました。
ある時、讃岐での仕事を終えて、帰ってくる途中の山中で、日が暮れてしまいました。暗い山道を歩いて、峠までやってくると、大きな山犬が待ちかまえているのに、出会いました。
白い牙がギラギラと光って、ダラダラとよばれをたらしている姿を目にして、大工は腰を抜かして、道に座り込んでしまいました。
山犬は、頭をかかえて震えている大工のそばに寄ってきました。そして、大工の肩を、前足でとんとんと叩いたのです。
大工が、おそるおそる頭を上げて山犬を見ると、その口の中にとがった1本の骨が突き刺さっていました。
大工は、道具箱から、くぎ抜きを取り出すと、山犬の口の中に差し込み、グッと力を入れると、骨がスッととれました。
骨をとってもらった山犬は、うれしそうに尾を振って、大工の周りをぐるぐる廻った後、山の奥に姿を消しました。
それから何年かたったある時、大工は、また、讃岐からの仕事の帰りが遅くなって、山中で夜になってしまいました。
峠までやってくると、あの山犬が後を追いかけてきて、飛びかかり、着物のえりをくわえて、大工を地面に引き倒したのです。
「おまえ、なにをするんな。この前、助けてやったのに」と言いながら、ばたばたと暴れましたが、山犬は大工の上に、覆いかぶさって、すごい力で大工を押さえつけたのです。
大工が、山犬の下で震えていると、とうげの方から、声が聞こえてきました。
「うまそうなエサが来るので、ここで待っとったのに、山犬のやつに先に食べられてしもうた。」
そして、なにやら黒いものが、バサバサと音をたてて、飛び去っていったのでした。
その影が山の向こうに消えてしまうと、山犬は、大工の顔をペロペロなめて、体の上から降りたのです。
大工は、家まで送ってきてくれた山犬に、お礼にあずきごはんを食べさせました。