(33)白べん 黒べん (高知のむかし話)


山田(宿毛市山奈町山田)の奥に、権現駄場(ごんげんだば)というところがあって、そこに新次郎という人が住んでいました。


新次郎は、猟が好きで、よく山に殺生(鳥や獣を獲る)に行っていました。


「べん」という良い犬を、2頭飼っていて、白い犬を「白べん」、黒い犬を「黒べん」と呼んでいました。


新次郎が、2頭の犬を連れて、山田でいちばん深い山の大出合(おおであい)に、猟に出かけたときのことでした。


道のまん中に、太い松の木が横倒しになっていたので、新次郎は、何の気なしに、その木に腰掛けて、一服していると、犬たちが、ワンワンと吠えながら、騒ぎ出したのです。


そして、犬がその松の木に咬みついたら、驚いたことに、そこから血が流れ出したのです。


新次郎が、立ち上がって、松の木をよく見ると、それは、大きなうわばみ(大蛇)でした。


うわばみと2匹の犬たちの闘いが始まりました。しかし、白べんはうわばみに丸呑みにされ、黒べんもぐるぐる巻きにされて、絞め殺されてしまいました。


その間に、新次郎は鉄砲に弾を込めて、「八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)」と唱えながら、撃ったところ、みごとに命中して、うわばみを退治することができました。


新次郎は、山刀(やまがたな)で、死んだうわばみのうろこを一枚はがして、証拠として持ち帰りました。そして、それを村の衆に見せたところ、みんな、たまげて、大騒ぎになりました。


村に帰った夜、眠っていた新次郎は、家がギシギシと鳴る音で眼を覚ましました。戸を開けて見ると、うわばみが家をぐるぐる巻きにしていたのです。


新次郎が、「わりゃ、まだ、生きちょったか」と叫ぶと、そのうわばみは、こう言ったのです。


「わたしは、昼、おまえに殺されたうわばみの女房です。死んだもんは、しょうがないけれど、だいじなうろこを見世物にされたんでは、亭主は死んでも死にきれまい。どうか、うろこを返して下さい。」


新次郎が、うろこを返すと、めん(メス)のうわばみは、囲みを解いて、山へ戻って行きました。


いつの頃からか、山田の奥山で、「シロベーン、クロベーン」と鳴く鳥が現われるようになりました。うわばみに殺された2頭のべんのたましいが、鳥になって鳴いているのだと言われています。