(28)犬のおつかい (京都のむかし語り)
むかし、切戸の文殊さん(知恩寺)のおしょうさんが、一匹のシロという名の犬を飼っておりました。
シロには、毎日、文殊さんから一里離れた町におつかいに行く仕事がありました。シロは、必ず、暮れの鐘が鳴る前に帰ってきました。
こんなかしこいシロでしたので、おしょうさんは、修行中の小坊主を叱るときには、「ちっとは、シロを見習うたら、どうじゃ」と叱りました。
何べんもそんなふうに叱られていた小坊主は、だんだんシロが憎らしくなってきました。
シロがおつかいに出た後、小坊主は、シロの鼻をあかしてやろうと考えて、いつもより1時間も早く、お寺の鐘を突いたのです。
お寺に戻る途中のシロは、その鐘の音を耳にすると、悲しそうに空を見上げて、おしょうさんとの約束をやぶったことを詫びるように、一声鳴いて、崖っぷちから飛び降りて、死んでしまいました。
シロの死を知ったおしょうさんは、三日三晩、お堂にこもって、お経を上げました。そして、村の人たちは、シロの死んだ崖っぷちに、小さな石碑を建ててやりました。