(27)蓄音器を聴く犬


日本ビクターのマークになっているのが、「蓄音器を聴く犬」です。


原画は、1889年に、イギリスのフランシス・バラウドという画家によって描かれた「His Master's Voice」というタイトルがつけられた絵です。


そこに描かれているのは、フランシスの亡くなった兄、役者のマーク・バラウドが飼っていた、「ニッパー」という名のフォックス・テリアです。


兄が亡くなった後、ニッパーを引き取ったフランシスが、たまたま家にあった蓄音器に吹き込まれていた兄の声を再生したところ、ニッパーが蓄音器のラッパの前で耳を傾けて、なつかしむように、その音声に聴き入っていたのです。


その姿に感動したフランシスが描いたのが、この絵だったのです。


ニッパー

日本ビクター(株)ホームページより


フランシス・バラウドは、1899年2月にこの絵の利用に関する所有権を登録しました。


グラモフォン社は、フランシスからこの絵とその商業権を100ポンドで買取り、その時に、画家に原画に描かれていたエジソン=ベル印の円筒形蝋管付き蓄音機を、最新型のグラモフォン社の蓄音機に描き直すように依頼しました。


ニッパーは、フォックス・テリアということでしたが、すこしだけブル・テリアの血も入っていたらしいと言われ、喧嘩っぱやく、ネズミ狩りの名人だったとのこと。主人がボール紙に猫を描いてやると、大喜びでとびついたという逸話も伝えらています。


ごく小さな会社だったグラモフォンは、ニッパー・マークのレコードが驚異的に売れたおかげで、大発展を遂げ、感謝の意味を込めて、画家のフランシスに巨額の年金を与え、この絵の複製を数ダースも注文しました。


ニッパーの姿は、音楽愛好家に人気が出ただけではなく、1900年以降、新聞、電球、鏡、時計、カフスボタンなどにも登場するようになります。ニッパーの像は、無数に制作されましたが、最も大きなものは、ニューヨークのオールバニ・ビルの上にそびえていた高さ8メールの像でした。


(参考資料)

「世にも有名な犬たちの物語」ピエール=アントワーヌ・ベルネム著 文藝春秋刊