(26)悪魔の犬エリンチャ(オーストラリアの昔ばなし)


悪魔の犬エリンチャは、黒い肌の男たちが大ぜい集まって、コロボリー祭りをしているところに近づきました。若者たちに、部族に伝わるしきたりやきまりを教える、大事な祭りです。


悪魔の犬は、赤い樹液のでる大きなユーカリの木の根元に行き、地面の中にもぐって、隠れました。


黒い男たちは、からだに泥絵の具で模様を描き、うなり板をふりまわして、歌い、踊りました。そして、疲れて、皆、眠ってしまいました。(うなり板は、髪の毛を編んだひもをつけた板で、振ると動物のうなり声のような音をたてます。先住民族のアボリジニが祭りに使うもので、ナマツーナと呼ばれています。)


この時を待っていた悪魔の犬は、砂の中から姿を現して、眠りこんでいる男たちを全て、飲み込んでしまいました。


ひとりの若者がやってきて、祭りが行われていた高いトーテム・ポールの下に横たわっている悪魔の犬を見つけました。


「たいへんだ。みんな悪魔の犬に食われてしまったんだ!」


若者は、悪魔の犬に忍び寄り、犬が起き上がるのを見定めて、石槍をヒュッと投げつけました。石槍は、悪魔の犬の口元に命中して、口を耳まで裂きました。


すると、腹の中に飲み込まれていた人間が、ひとり残らず、飛び出してきました。


悪魔の犬は、地中に潜って、ウンゴルタレンガに帰ると、元の老人の姿に戻りました。


(解説)


エリンチャとは、巨大なディンゴ犬をさすことばです。ディンゴ犬は、8000年から1万年くらい前に、オーストラリアに渡ってきたといわれています。からだが大きくて、カンガルーなどの有袋類を狩りして食べるので、悪魔の犬エリンチャとして恐れられました。


ヌーリャは、夢の時代(創世神話の時代)に、人間からディンゴに変身した男の名前です。ディンゴ犬をトーテムにもつ部族にとっては、このヌーリャは、トーテムのご先祖になります。



(参考図書 悪魔の犬エリンチャ 百々佑利子編訳 小峰書店刊)


アボリジニの若者 (クイーンズランド観光局提供)


アボリジニ