(25)犬になったむすめ (イランの昔話)


ある美しいむすめが、犬の皮をかぶって犬になり、髪の毛を洗うときだけ、皮を脱いで、人間に戻りました。


ひとりの王子がむすめの秘密を知り、彼女と結婚しました。


王子の弟は、兄が犬と結婚し、美しいむすめが皮の下から現れたのを見て、自分も真似しようと考えました。


弟の王子は、砂漠のヒツジ飼いから、大きな犬を買って、連れて帰りました。そして、犬に向かって「皮を脱いで、姿を現しなさい」と命じましたが、犬は吠えるばかり。


弟の王子が、何度も同じ言葉を繰り返すので、犬はだんだん凶暴になってきて、ついには襲いかかって、ずたずたに咬み裂いてしまいました。


(解説)


イスラム教の国、イランでは、犬は、いちばんけがれた動物と考えられているので、羊飼いが番犬にしたり、狩人が猟犬として使う以外には、一般の人が、家でペットとして飼ったりすることはありませんでした。


むすめは、皆が嫌がる犬の皮をかぶっていれば、身元が知れないと考えたのでしょう。


むかしは、結婚式では、新郎新婦だけではなく、参列する人たちもみんな、牛や鹿などの動物の毛皮をかぶりました。大切なときには、先祖の姿になるという考え方があって、昔の結婚は、犬や鳥、牛など動物の世界と交流するという意味を持っていたようです。


世界には、白鳥伝説や羽衣伝説というむかし話があります。


羽衣伝説では、羽衣を着て、鳥のすがたをした天女が、地上に舞い降ります。そして、羽衣を脱いで、人間の女性になって水浴びをします。若者がそれを見て、羽衣を隠し、天女を帰れなくして、妻にします。


天に戻った妻のところに行こうとする若者は、犬を連れてきて、その力で天に昇りました。


参考資料 「イランのむかし話」 井本英一編訳 偕成社刊