(17)犬塚の話 (江戸崎の昔話)


むかし、江戸崎の神の蔵(かんのくら)というところには、地下深く、龍が棲んでいると言われていました。


龍を怒らせると、3日3晩、激しい雨が降り続いて、稲が全滅してしまうので、決して龍を怒らせてはいけないという言い伝えもありました。


ある日、白い大きな犬が迷い込んできました。


立派な毛並みが太陽の光にキラキラと光り、大きく澄んだ瞳をもっている犬は、いつも鹿島神社の方から出てくるので、村人は「神様の使いではないか」と、大切にしていました。


ある時、村人がうっかり、農作業に使った鍬(くわ)を田んぼに置き忘れてしまいました。


龍は金物が大嫌いだといわれていたので、気づいた村人はあわてて取りに戻ろうとしましたが、すでに空は黒い雲に覆われ、稲妻が走ったかと思うと、どしゃぶりの雨が降り始めたのです。


村人たちが、おそれおののきながら、神の蔵の方を見ると、赤い炎がふたつ並んで揺れていました。それは、二つ並んだ龍の眼だったのです。


龍は、火を吐き、何かと闘いながら、竜巻とともにこちらに近づいてきます。何と、闘っている相手は、あの白い犬でした。


泥の中にはいつくばっていた村人たちが、我にかえった時には、空はすっかり晴れ渡り、いつもの静けさが戻っていました。


あたりを見回すと、白犬が倒れていました。咬み切った龍の首をくわえて、息絶えていたのです。


村人は、白犬の亡骸を手厚く供養し、立派な塚を建てました。それから、この地は、犬塚と呼ばれるようになりました。


(解説)


犬を葬ったと称する塚に関しては、その由来を語る伝説が、いろいろあります。


「茨城県の那珂郡にある犬塚」


浄印寺の僧侶が、那須の乱を鎌倉に知らせるために、白犬に書状を持たせたところ、一晩で戻ってきて、高岡というところで倒れ死んだ。その遺骸を埋めて、犬神権現として祀った。


「千葉県の東葛飾郡にある犬塚」


小金城主が、狩りの合間に大木の根元で休んでいたら、犬が吠え狂ったため、斬ると、その首が飛んで、木の梢に隠れていた大蛇に咬みついた。犬を手厚く葬り、犬塚とした。