(15)旅人が犬をつれていくわけ(インカの民話)


ある夜更けに、ひとりの旅人が、さびしい道を歩いていました。すると、ふいに亡霊が現われました。旅人は、おそろしさのあまり、ぶるぶる震えるばかりでした。


その時、旅人がつれていた犬が、亡霊に向かって話しかけました。


「亡霊よ。わたしの体の毛が何本あるか、数えてみろ。おまえが、全て数えることができれば、主人を連れていくなり、殺すなり、好きにするがいい。でも、数えられなかったら、なにもせずにここを通してくれ」


亡霊はうなずくと、犬の毛を一本一本、数えはじめました。もう少しで数え終わるというときに、犬はわざと、ブルブルと体を震わせました。


亡霊は、どこまで数えたかわからなくなってしまったので、また、はじめから数え始めました。もう少しというところで、犬がブルブルとしたので、亡霊はまた、最初からやり直しです。


そんなことを繰り返しているうちに、夜明けを告げるニワトリの鳴き声がして、亡霊はあわてて逃げていきました。


こうして、犬は旅人を亡霊から守ることができたのです。