(4)金の子犬と銀の子犬 (アイヌの昔話)
川下に住むパナンペが、川で獲った鮭を運んでいると、川岸に一匹のやせた犬がいるのを見つけました。子持ちらしく、乳房をだらりとさげて、悲しげにこちらを見ているので、パナンペは、いちばん肥えた鮭を選んで、よく洗って、その犬のそばにおいてやりました。
犬は、その鮭をくわえて、嬉しそうに尻尾を振りながら、パナンペを振り向き、振り向き、歩いて行きます。まるで誘っているようなので、パナンペは陸に上がってその犬の後をついていきました。
その犬は、かやの野原を抜けると、大きなお屋敷に入っていきました。パナンペも入っていくと、そこでは大勢の人々がお供え餅をついていました。そして、たくさんの金の子犬や銀の子犬がいて、パナンペを見つけると、金の子犬は、「金色ワンワン」、銀の子犬は、「銀色ワンワン」と吠えました。
屋敷の中には、品の良い老夫婦が座っていて、その横にいる若い女の前にはパナンペが与えた鮭が置かれていました。
老主人の翁は、パナンペの温情にお礼を述べて、ごちそうを振舞いました。
パナンペが屋敷を去るときに、翁が「金色の子犬と銀色の子犬のどちらかを連れて行きなさい」と勧めるので、パナンペは、銀色の子犬を選んで、荷車の上に載せて、おみやげにもらったお供え餅を与えながら、大切に家に連れて帰りました。
翌朝、パナンペが目覚めると、銀色の子犬は姿を消していて、家の中には、宝物がどっさりありました。
その話を聞いた川上に住むペナンペは、悔しがって、早速、川に鮭を獲りに出かけました。鮭を運んでいるとやせた犬が川岸に現れたので、ペナンペは、いちばん小さな鮭を選んで、砂まみれのまま、その犬に投げつけました。
その犬は、魚をくわえると振り返ることもなく、歩き去っていきました。
ペナンペはあわてて、後を追いかけ、カヤの野原を抜けると大きな屋敷に着きました。ペナンペは、吠える子犬たちに石を投げつけて追い払うと、屋敷の中に入っていきました。
それでも、老主人はペナンペにごちそうを振舞い、最後に金色の子犬と銀色の子犬を選ばせました。
ペナンペは、金色の子犬を選ぶと、子犬をけとばして歩かせながら、家に戻ってきました。おみやげのお供え餅は、一口も子犬に与えませんでした。
翌朝、ペナンペは、家の中に犬の糞が積もっていることに気づきました。家の外に掃きだしても掃きだしても、糞は後から後から降ってきて、ペナンペはとうとう疲れ果てて、死んでしまいましたとさ。