ノーベル賞作家の川端康成氏は、無類の犬好きで、ワイヤー・フォックス・テリア、コリー、グレイハウンドなどを飼っていました。
「禽獣」という小説では、柴犬やボストンテリアが登場しますが、1932年には、飼い犬、ワイヤー・フォックス・テリアのエリーをモデルにした短編小説「愛犬エリ」を執筆しました。
そして、1992年(昭和7年)に「婦人生活」に愛犬家としての心得を寄稿した後、翌年の1993年(昭和8年)に「わが犬の記、愛犬家心得」を発表しています。
1.血統書ばかりではなく、親犬の習性を良く調べた上で、子犬を買う
2.放し飼いをしない
3.犬を訓練所に入学させ、また、犬猫病院へ入院させるにも、預け先の犬の扱いをよく知っておく
4.一時のきまぐれやたわむれ心から、犬を買ったり、もらったりしない
5.数を少なく、質をよく、そして一人一犬を原則とする
6.犬も家族の一員のつもりで、犬の心の微妙な鋭敏さに親しむ
7.犬に人間の模型を強いて求めず、大自然の命の現れとして愛する
8.純血種を飼う
9.病気の治療法を学ぶよりも、犬の病気を予知することを覚える
10.先ず、牝犬を飼って、その子どもを育ててみる
11.犬を飼うというよりも、犬を育てるという心持をどこまでも失わない
「愛犬家心得」のなかで、「純血種を飼え」と言っていますが、当時は、「純血種はジステンパーにも弱く、飼いにくく、死にやすい。初心者はまず雑種を飼うべきだ」というのが通説だったのに対して、川端氏は、「もらった犬だと粗末にする。高いお金で買った犬であれば、注意して大切に飼う」という持論を展開したのです。
「犬の病気を予知すること=予防法」については、川端氏は、「私の経験では、犬はそう死ぬものではない。子犬の消化器の寄生虫と成犬のフィラリアに注意すれば、だいじょうぶ」と解説しました。
「牝犬を飼って、その子犬を育てる」ということに関しては、「愛犬趣味も度を越すと、家を潰しかねない」と安易な繁殖に手を染めることを戒めながら、「犬の妙味というものは、自分がへその緒を切ってやった子犬を育てあげないと、十分にはわからない」と説明しているのです。
「わが犬の記、愛犬家心得」は、2004年に中央公論新社から発売された随筆集「犬」に収められています。
この書籍は、1954年に刊行された単行本「犬」を底本に、クラフト・エヴィング商会の創作・デザインを加えて再編集されたものです。
・赤毛の犬 安部知二
・犬たち 網野菊
・犬と私 伊藤整
・わが犬の記 愛犬家心得 川端康成
・あか 幸田文
・クマ 雪の遠足 志賀直哉
・トム公の居候 徳川夢声
・「犬の家」の主人と家族 長谷川如是閑
・犬 林芙美子
・ゆっくり犬の冒険-距離を置くの巻(クラフト・エヴィング商会)
