●犬の耳


一般的に犬の耳というと、外耳のことです。外耳は、耳介と外耳道に分けられます。


耳介は、ろうと状の構造で、音を集め、その発生源を探る機能をもっています。耳介は、シート状の軟骨を皮膚によって両側からサンドイッチするような形になっています。


ゴールデン・レトリーバー、アメリカン・コッカースパニエル、ビーグルなどワーキング・ドッグとして改良されてきた犬種の耳介は、虫や異物の侵入を防ぐために、折れ曲がって、蓋の役割をするようになっています。


耳介の外側は、被毛で覆われています。内側は、辺縁部には薄い被毛がありますが、耳根部に近づくにしたがって、少なくなります。


例外として、シュナウザー、コッカースパニエル、プードル、マルチーズなどでは、外耳道全体に、毛がたくさん生えています。口の周りの毛が伸びる犬種は、耳の中の毛も伸びるとされています。


犬には、外耳炎が多く、特に耳が垂れている犬種、耳道に毛が多い犬種に多発します。通気が悪いので、細菌や酵母などが繁殖しやすいためです。


外耳道には、耳垢線と呼ばれる特殊なアポクリン腺があります。本来は、耳垢は外耳道を保護する役割を果たしています。


外耳炎は、外耳道に溜まった耳垢(じこう)に細菌や酵母菌が繁殖したため、ダニの一種の耳疥癬(かいせん)への感染などで起こります。


細菌感染症


外耳道で繁殖する菌は、ほとんどがブドウ球菌などのグラム陽性球菌で占められます。


寄生虫感染症


ミミヒゼンダニ : 黒褐色の耳垢が特徴。強いかゆみがあり、犬は頭を振るしぐさをする

耳疥癬     : 耳介の辺縁の皮膚が厚くなり、角化する。強いかゆみがある

マダニ     : 耳介に寄生して吸血する。かゆみがある


真菌感染症


外耳炎の原因の7~8割を占めるといわれるマラセチアは、カビ(真菌)の中の酵母菌に属します。このマラセチアは、正常な皮膚にも普通に存在している常在菌で、普段は害を及ぼすことはありませんが、脂質や湿度が高い環境に出会うと、どんどん繁殖してしまい、皮膚に炎症を起こすようになるのです。


マラセチア性の外耳炎では、こげ茶色や黒色のネットリした耳垢がたまり、嫌な臭いがします。


●外耳炎の治療


最初に行うのは、外耳道の汚れを完全に洗浄することです。薬剤の効果を及ぼすため、汚れを取り除いておく必要があるからです。


洗浄前に、外耳道内の毛を抜き、スクワランなどの耳垢溶解剤で処理しておきます。


洗浄剤には、次のようなものがあります。


生理食塩水

鼓膜に異常がある、鼓膜が確認できないといった場合には、中耳や内耳へのダメージを避けるために、生理食塩水を使ったほうが安全。


クロルヘキシジン

広範囲な抗菌作用があり、残留性もあるが、犬には安全性が高いとされる。

精製水か蒸留水で0.05%に希釈して、使用する。


イヤークリーナー

オーツアベナンスラマイド、サリチル酸などが入った市販のイヤークリーナー。一般的には、低刺激で、抗炎症作用、抗掻痒作用、殺菌作用がある。


●外耳炎から内耳炎へ


外炎の炎症が中耳から内耳まで達して、内耳炎を起こすと、内耳のそばを通っている「前庭神経」という脳神経が障害を受けます。


前庭神経は、身体の平衡感覚を調節する神経なので、それが障害を受けると、「斜頸」と呼ばれる頭が傾く症状が出ます。外耳炎でも、頭を傾けるしぐさを見せることはありますが、前庭神経の障害では、くるくる回って、まっすぐ歩けなくなったり、立てなくなることさえあります。


また、内耳の側には、眼の瞳孔の調節をしている交感神経の一部も通っているので、内耳の炎症によってこの神経が障害を受けると、瞳孔が小さくなる症状がでることもあります。