(1)地震から命を守る「住宅耐震補強」


1.東京直下型地震の被害想定


東京都は切迫しているとされる直下型地震で最も被害が大きい区部直下の深さ20~30キロに阪神大震災とほぼ同じマグニチュード7.2の地震がおきた場合の被害想定を1997年に公表した。(冬の平日夕方6時に発生した場合)


死者        7,159人

負傷者     158,032人

帰宅困難者 3,710,000人

避難者    1,510,000人

建物全壊     42,932棟

建物半壊     99,596棟

焼失家屋    378,401棟


電気の復旧       1週間

下水道の復旧      1ヶ月

都市ガス停止      2ヶ月

鉄道交通復旧      1ヶ月

高速道路復旧      2ヶ月

通信の復旧       2週間

就業制約者   206,397人


2.建物の倒壊で下敷きにならないために、耐震補強工事をする


阪神・淡路大震災では、命を落とした5,502人の内、85%は建物の倒壊や家具の転倒による圧死・窒息死。その2/3は地震から15分以内に絶命している。倒壊した建物は19万棟に上り、特に1981年に定めた新しい耐震基準適用以前の古い木造住宅に大きな被害が出た。


地震による火災は、神戸市内だけでも170件を越えたが、その火元になったのが、倒壊家屋。倒壊による漏電やガス管の破損が原因となって火災が発生したため。また、倒壊した家屋が道を塞いでしまったために消火活動ができず、どんどん延焼してしまった。


東京が地震に襲われた場合、東京都の被害想定では、230万戸ある木造住宅は、揺れと液状化で14万戸が全半壊し、火災で38万戸が焼失すると考えられている。死者数は、建物倒壊等で2,344人、火災を含めれば7,000人にも上ると予測されている。


防災の究極の目的が人命救助であるならば、住宅の耐震性を強化して建物が倒壊しないようにする以外に被害を食い止める方法はない。つまり、「被害軽減」のためには、新耐震基準が施工された1981年以前の建物の耐震化、不燃化を推進しなければならない。


多くの日本の住宅は、湿潤な気候の中で快適に暮らすために、風通しの良い、湿気のこもらない構造である木造在来工法で建てられている。調湿性に富んだ素材である木材を柱に使い、壁に大きな窓を多く設けている。暮らすには快適なこの構造は、地震には弱点になってしまう。


1980年に建築基準法が改正されたので、それ以降に建てられた住宅には厚さ3センチ以上、幅9センチ以上の筋かいを入れるようになっている。


筋かいとは、2本の柱と柱の間に斜めに渡される部材のことで、それを入れることで、壁の強度が増し、地震の横揺れ、つまり水平方向の負荷から家を守る役割を果たす。ただし、そのすじかいは斜めの傾斜がゆるやかなほど有効になるが、窓が大きく、数が多ければ壁は狭くなるので、十分な強度がとれなくなってしまう。


阪神・淡路大震災で倒壊した住宅に共通するのが、筋かいの数が少なかったり、強度が十分ではなかった。


また、「ほぞ抜け」という現象も指摘されている。


基礎の上に乗っている横材である土台と、家を支えている縦材である柱をつなぐ接合部分をほぞと呼びますが、それが地震の縦揺れで柱が突き上げられたり、横揺れで引っ張られたことで、欠け込みと呼ばれるくぼみから外れてしまった。


老朽化した木造住宅では、接合部であるほぞにゆるみが生じていたり、しろありなどの虫に喰われていたりするため地震に弱く、阪神・淡路大震災では古い家ほど倒壊率が高くなっている。


1950年の建築基準法以前に建てられた家では全体の70%が、それ以降1980年の法改正までに建てられた家では50%が倒壊している。


東京では耐震補強が必要な住宅は100万戸~130万戸あるとされる。


家が倒れなければ、道路上に消防車の通行を妨げる倒壊家屋が少なくなり、消火活動の効果も上げられるので、火災による家屋や人命の損失も抑えることができる



家を建て替えるとか、家を完全に守るための耐震補強工事をするとなると、とてもその費用を負担できないというお宅は多いので、「命を守る」という目的に絞って、十分にその目的が達成できる安価な耐震補強工法、補強金物を使用する工法が注目されている。


新築住宅の着工件数が減っていることから、耐震改修を含めて住宅のリフォーム事業に参入しようとする業者が増えている。


そして、一般的な住宅リフォームの場合には、何の資格もいらず、行政によるしばりもないため、悪質な業者が暗躍する舞台にもなっている。リフォームに関する苦情が国民生活センターには多数寄せられている。


特に耐震リフォームの分野では高齢者が悪質な業者の餌食になっている。


「高齢者世帯は1割負担で耐震診断ができます。」などと近づいてきて、原価2万円程度の部材を、「これなら震度7でも耐えられるものです」と30万円で売りつけたりしている。


行政は、「公平性の観点から、良い業者を推薦することもできず、かと言って悪質な業者の名前を簡単に公表することもむずかしい」という立場なので、消費者自らがにせものを見抜き、ホンモノを選ぶ自己責任が求められている。


住宅の耐震診断は東京では23区のほとんどで無料で実施している。各都道府県や市町村でも、耐震診断などの行政サービスが始まっている。


また、耐震というと直下型地震による縦揺れ対策だけに目が言ってしまうが、実は日本の地震のほとんどは海洋型地震で、縦揺れだけではなく、横揺れも来るので、「三次元の揺れに耐えられる」ような補強工法が必要。


そして、住宅は、真ん中から崩れることはほとんどなく、建物の四隅から崩れるので、その部分をしっかりと補強できれば、家の倒壊を防ぐことができる。それだけなら、何百万円もかける耐震リフォームは必要ない。


3. 寝室を考える


睡眠中は、地震が起きた時にすばやく反応して身を守ることができない。


阪神・淡路大震災では亡くなった人の8割が、木造家屋の1階部分がつぶれて建物の重みで圧死したり、寝室に置いてあった重い家具の下敷きになっている。


・寝室をできるだけ2階にする


・寝室にはできるだけ家具を置かない


・寝床のそばにスリッパか、履物を置いておく


窓ガラスが割れたり、食器棚から飛び出して割れた陶器やラス器の破片が室内に飛び散っているので、裸足で歩くとケガをする