(7)支援活動と動物救護活動への提言


動物救護活動は約10ヶ月、寄せられた義援金は2億2,000万円にも達した。マスターフーズ、フリスキーなどのペットフードメーカーからは競ってペットフード提供の申し出があり、東京で受付けることとなった。また、ケージや医薬品の提供に対しては、日本獣医師会が窓口となった。


動物たちの救援はただ単に動物の命を救っただけではなく、実は多くの被災市民を救う活動につながっている。家族を失い、家を失い、生きる希望さえ失った人、あるいは震災により心に大きな傷を負った人々が、動物がいたから生きられたと語り、動物を生かすために自分が生きる力を得ることになったと述懐している。精神的な痛手を癒し、心の安定を得る上で、多くの人が動物に助けられていたのだ。


獣医師ボランティアは、延べ8,000頭を超える被災動物の診療を行い、一般ボランティアの協力を得て、被災動物1,556頭(犬1,040頭、猫507頭、その他9頭)を救護した。

神戸動物保護センターには延べ15,195名、三田動物救護センターには延べ6,452名、伊丹動物一時保護収容所には延べ122名、全てで21,769名のボランティアが動物救護活動を行った。


この救援活動に参加したボランティアの70%がボランティア活動の未経験者。一方で、30%は動物愛護活動のボランティア経験がある人たちで、ボランティアとしての心構えだけでなく、動物の扱いに対する多少の経験と知識を有していた。


獣医師でなければできないこととして、負傷した動物の治療、地震の恐怖や飼い主との離別によるストレスからの下痢、食欲不振などの症状を呈している動物の治療などがあった。


動物救護ボランティアへのアンケート調査(回答数473)


「良かった点」

 35人 みんなで協力しあえた

 25人 仕事の指示が行き届いていた

「悪かった点」

 84人 作業の指示系統が不明、仕事がスムーズにいかない

 22人 人間関係で問題があった

 20人 ボランティアの人数調整の不備

「改善すべき点」

 46人 ボランティアの人数調整

 29人 仕事の説明、分担をして欲しい

 16人 仕事の引継ぎをきちんとすべき


「ボランティアに参加した人の感想」


地震によるストレスや病気で苦しむ犬や猫たちを前にして、どんな事に気をつけて接していったらよいか、初めはとまどいもあった。ICUでは、ボランティアの先輩たちが、動物たちの食事の世話や掃除、薬の管理等を細やかな配慮をしながら行っていた。私にもそんなことできるのかと不安ではあったけれど、ケージの中の動物たちの瞳と出合った時には、「この子たちが、早くよくなって、優しい飼い主さんの所でしあわせになれるといいな」と願わずにはいられなかった。


ボランティアって「してあげてるんだ」という気持ちではできないことだということを、学ばせてもらいました。自分の考えの甘さや弱さ、身勝手さをつくづく実感させられることばかりで、落ち込んでばかり。でも、自然体で、「自分のできることを、できるときにやればいい」と思うようになってからは、だいぶ仕事も見えてきて、動物たちが少しでもやすらげる時間が持てるように、心配りできるようになってきたように思う。


「ボランティア獣医師への意見」


今回の救護活動に参加したボランティアたちの多くから、組織の不透明さやリーダーの不在、コミュニケーションの欠如についての不満が出されていますが、その大きな原因のひとつは、この活動が組織での経験が少ない獣医師を中心として行われたことにあると思います。


私は獣医師たちの献身的な努力を批判するつもりは毛頭ありませんが、彼らは今回のような大所帯を運営するには、はなはだ力不足であり、もっと厳しい言い方をするならば、特に責任のある立場の人たちにリーダーとしての能力が欠けていました。

現場の意見を汲み上げ、組織の構成員が納得するような形で方針を決め、力量のある人間に適切な仕事につけるようなシステムを作る能力は、個人で仕事をしている獣医師にとって習得が困難な技術であると思われ、近い将来に獣医師会に変わって大規模な動物救護活動の行える民間団体が育つ見込みのない現状では、今後行われる救護活動においてもこのような組織運営の混乱が繰り返されることのないよう指針となるマニュアル及び一基本をつくっていくことが重要だと思います。



このようなことを避けるためにも、民間の動物愛護団体が早く成熟し、獣医師と共同して動物の救護にあたれるだけの能力を持つようになることを強く望みます。

日本野鳥の会 鳥と緑の情報センター 神山 和夫