(5)動物救護センターの状況


「神戸動物救護センター」


1月23日から収容施設を開設する準備がスタートした。床面積120㎡のビニールハウスに照明を付け、動物を収容するケージを置いただけの救護施設が完成したのは1月26日。


寒い時期は、天気が良ければ温室効果があり、雨や雪の日でも暖房器具を入れれば被災動物にとってもそれほど過ごしにくい環境ではないが、春になって気温が上昇するとビニールハウスの中の室温も上昇するので、それまでの時期の緊急避難的なもの。


2月末に義援金総額が1億1,000万円を突破したことから、3月25日にプレハブ・パドック式の施設建設を開始し、5月13日に完成した。


動物舎は3棟のパドック式犬舎つきのプレハブ2階建て、追って空調設備も完備された。占有面積1,400㎡、動物舎の総床面積は940㎡。


「獣医師ボランティアのレポート/その1」


全員がビニールハウスなど建てたことはない。金槌やペンチを持って作業に取り掛かる。先ず、整地、基礎を造り組み立てて行ったが、なにぶんにも全くの素人の集まりである。日がとっぷりと暮れ、真暗となり、寒風の吹きすさぶなか、缶コーヒーを飲みながらがんばったが、懐中電灯の光では作業は無理である。とても26日一日だけでは仕上がらないにもかかわらず、何としても27日には動物救護センターを稼動させなければ、会員の病院には飼い主不明の動物や負傷した被災動物であふれている。


27日午後よりハウスの建設整備と同時進行にて動物収容を開始したが、ケージが全く足らない。獣医師会会員と日本動物福祉協会会員から急遽調達して急場を凌いだが、瞬く間に満杯となってしまった。

特に収容動物の脱走には一番気配りをしなければならない。ゴルフ練習場用のネットを借り受け、側面に張り巡らせた。


全国から馳せ参じてくださったボランティアの方達は寝袋でのゴロ寝であった。


約一ヵ月後にはコンテナハウスが入手でき、収容施設らしくなったが、プレハブ・パドック付の新施設ができるまでの三カ月半、このビニール・ハウスが大活躍をした。


大震災の発生が厳冬期であったため、比較的手当のしやすい暖房対策にとどまったこと、爬虫類の保護依頼がなかったこと等が、幸いしたと言える。


夜の冷え込み対策としてビニールを二重にしたり、結露を防止するためケージを毛布で覆い保温に努めた。火災には特に注意を払い、ペットボトルにお湯を入れたり湯タンポにより暖をとった。


保護した動物にとってより良い環境をと最大限の努力をしたが、中には沢山の動物が収容されケージ飼養のためかストレスが溜まり、主として動物出し入れの時のボランティア達の咬傷事故に悩まされた。


「獣医師ボランティアのレポート/その2」


2月18日からボランティア獣医師も保護動物の治療にあたった。診療頭数は1日約40~50頭。ただし、薬品類等はほとんどないに等しい。かなりの低蛋白血症の犬に投薬はリンゲルと強肝剤、抗生剤でアミノ酸製剤やプラズマなどはない。抗生剤もペニシリン類など少量はあるが、新しい抗生剤はない。当面の薬品は自分で持って行くことが最善の方法であろう。


動物の病気としてはF.V.R、創傷、下痢、腎障害、膀胱炎、尿路結石等が主で、先日はパルボウィルス性腸炎が発生し、4頭の死亡があった。


夜間は犬舎、猫舎はかなり低温になる(多分0℃位)ことから傷病動物には劣悪な環境である。


一般ボランティアは主に協力的で、我々獣医師を頼りにしてくれる。又獣医師が命じたことは進んで手伝ってくれる。しかし、高圧的態度は慎むべきであろう。ボランティアは若い人が多いので、気が変わればすぐにでも帰ってしまうであろう。


この点は神戸の獣医師も特に気を使っているところで、現在のセンターの働きは全てこれらの若い人によって成り立っている。当センターは1~2年間は維持したいとのことである。現在は若い、健康な動物も多いが、一時預かりの動物が帰ったり、里親にもらわれていくために出ていくと、後には老齢動物や傷病動物がが残り、100~70頭になれば、神戸市内の獣医師が1~2頭引き取れば、センターは解散とのことである。


神戸市に来られる先生は、白衣、聴診器等、手なれたものを持参された方が良い。センター内では外科手術等は現在は出来ない状態であるが、メスの刃等必要と思われる。咬傷等の緊急の手術の必要は増えてくると思う。


あれば良いと思う薬品


下痢止め(内服、散剤)

抗生剤(パルミテート、シロップ等)

蛋白製剤(アミノ酸製剤 プラズマ等)

輸血用のチトラート又は採血びん等

オブラート(又はカプセル)

スポイト(プラスチックで可)

その他にも必要と思われる薬品、器具は多くある。


5月31日までに保護された犬575頭、猫221頭の内、何からの異常を示した犬は約50%、猫は60%以上いた。


ほとんどが収容後10日以内に発症していた。収容された動物たちの多くは、地震による直接的な被害とともに、飼育環境が急激に変わったことによるストレス、あるいは寒さから体調を崩したものと考えられる。


・下痢、嘔吐、血便などの消化器系疾患     犬  47.5%    猫  46.2%

・発咳、くしゃみ、鼻水などの呼吸器系疾患       19.5%       23.2%

・地震による外傷や骨折             (40頭) 6.0%  (34頭) 7.0%