●緊急時に生じる集団の心理状態
2003年2月18日の午前10時少し前、韓国の大邱(テグ)市の中央路(チュアンノ)駅で、地下鉄内の車両に放火する事件が発生しました。
196名の死者と147名の負傷者を出す惨事となりましたが、事件後に、地下鉄車内での乗客の様子を写した写真が発表されました。
その写真には、煙が充満しつつある車内で乗客がじっと座席にすわっている様子が写っていました。不思議なことに、死の危険が迫っているにもかかわらず、乗客は逃げようとしていないのです。
その理由は、「多数派同調バイアス」と「正常性バイアス」という心理状態が乗客を支配してしまったためです。
「多数派同調バイアス」
災害や事件などの非日常的な状況が起こった時には、人は「無思考状態」に陥ります。
煙が車内や駅に充満したら、危険を感じてすぐに避難しようとするはずだと思うでしょうが、人は、これまで経験したことのない出来事が突然、身の回りで起こって、どうしたらよいかわからないときには、とりあえず周囲の人がどうするかを見て、同じ行動をとることが安全だと考える「多数派同調バイアス」に支配されてしまうのです。
「正常性バイアス」
助かった乗客のひとりが「まさかこんなに大変な火災が発生していたとは思わなかった」と話していたように、「たいしたことはないはず」という心理が働き、異常事態と察知するスイッチが入らない状態「正常性バイアス」が働いてしまったのです。
車掌が「落ち着いてお待ち下さい」と車内放送したために、乗客はパニックを起こすこともなく、黙って座席に座っていました。
のっぴきならない状態になって初めて、乗客は車両から脱出しようとしましたが、運転手がマスターキーをはずして逃げ出していたため、車両のドアを開けることができず、多くの乗客が車内に閉じ込められて逃げ遅れたのです。
本来なら乗客を誘導して非難させなければならない車掌と運転手のエラー、「エキスパート・エラー」が多くの犠牲者を出すことになったのです。
災害時にあなたの命を救うのは、正しい知識に基づき、信念で行動することです。
「みんなが動かないのに、自分だけ助かろうとしているなんて思われたくない」と考えることが命取りになることを覚えておいて下さい。
例えば、鳥インフルエンザが大流行すると世界中で数億人の人が死亡すると言われています。
あなたが乗ったバスに「ひどく咳き込んでいる乗客」がいたとしたら、あなたは次のバス停で降りるべきなのです。もちろん、外出をしない、あるいは外出するときは、ウィルスの侵入を喰い止める特別なマスクをするほうが、よりかしこい対処方法です。