●石鹸の基礎知識
普通、石鹸と呼んでいるのは、脂肪酸ナトリウムNaと脂肪酸カリウムNaで、陰イオン(アニオン)界面活性剤に分類されます。「100%植物性(石鹸素地)」と表示されていれば、石鹸です。
石鹸は、動植物の脂肪酸にアルカリを反応させて作ります。原料の脂肪酸には、炭素の数が12、14、16、18の4種類と二重結合の2種類で合計6種類あります。それに2種類の塩(ナトリウム、カリウム)のどちらかを反応させて作るので、科学的には石鹸は12種類に分かれます。
固形石鹸は、浴室などに置いておくので水に溶けにくいC18脂肪酸ナトリウムNaを主原料として使います。石鹸シャンプーの場合は、水の溶けやすいC12脂肪酸ナトリウムNaか、それよりもさらに溶解性の高い脂肪酸カリウムNaを使います。
脂肪酸の原料になるのは、牛脂(ヘッド)、ヤシ油(ココヤシ)、パーム核油(アブラヤシ)などです。
「牛脂の脂肪酸組成(%)」
オレイン酸 C18:1 36.5%
バルミチン酸 C16 29.0%
ステアリン酸 C18 18.5%
ミリスチン酸 C14 3.0%
リノール酸 C18:2 3.0%
石鹸は、脂肪酸(油)とナトリウムが結合した「脂肪酸金属塩」という分子でできています。それが水に溶けると加水分解という反応がおこって、石鹸の水溶液は弱アルカリ性になります。
アルカリは、脂肪やたんぱく質の汚れを分解して洗い落とします。
「皮脂の成分構成」
ドリグリセリド 32.5%
遊離脂肪酸 30.0%
コレステロール(類) 7.5%
脂肪酸エステル 15.0%
スクワレン 5.0%
脂肪族炭化水素 7.5%
皮脂汚れの約3分の1を占める遊離脂肪酸は、アルカリ性の洗浄液に接すると石鹸になって水に溶け、除去されます。形成された石鹸は、トリグリセリドなどの他の油汚れを落とすためにも、プラスのはたらきをします。
石鹸は普通はPHが10~11程度の強アルカリ性です。PHを9~10に落としたものもありますが、それ以下にすると洗浄力が極端に弱くなります。
●石鹸(アルカリ性)は皮膚や被毛にどんな影響を与えるのか?
1)皮膚にダメージを与える?
○皮膚表面の皮脂や汗などは酸性の物質なので、それらと接触すると、弱アルカリ性の石鹸は界面活性作用を失ってしまう(失活する)ので、角質層を通過して浸潤することはない。
×皮膚からタンパク質(アミノ酸成分)を溶かし出す作用(NMFの溶出)について調べたところ、PH10以上の弱アルカリ性の石鹸には、PH4~6の弱酸性の界面活性剤の約4倍の溶出力があることがわかった。タンパク質が膨潤状態になり、もろくなるので、少し力を入れてこすったりすると表皮角質層の表面部分などは脱落してしまう。裸状態になった皮膚に直接アルカリが作用して、皮膚にダメージを与える。
×石鹸の皮膚への残存率は、低刺激性のアミノ酸系界面活性剤と比べると3倍以上ある。
○弱アルカリ性の石鹸で洗っても、皮膚はすぐに弱酸性に戻る。すすぎは中性の水道水(お湯)を使うので、皮膚の表面はほぼ中性近くまで戻る。健康な皮膚であれば、その後、皮脂の分泌により徐々に弱酸性に戻る。
2)被毛にダメージを与える?
×アルカリ成分は、皮膚の一種である被毛のタンパク質(特に間充物質)を溶かす。また、被毛のキューティクルが開くので、洗っているときにきしみ感が出る。
被毛は水で濡れても膨潤は起こるが、乾燥すると元の引き締まった状態に戻る。しかし、アルカリ剤を使った場合に起こる膨潤は、酸性リンスをしないと元には戻らない。
リンスをしないでそのまま乾かすと、切れ毛などが起こりやすく、ドライヤーの熱を当てると「ランチオニン」という物質ができて、被毛を硬くしてしまう。
×被毛の保湿力が奪われるので、乾かすと被毛がパサパサになり、静電気を生じるため、もつれやからみ、毛玉などができやすくなる。細い被毛の場合、仕上がりが重くなる。
×お湯に溶けた石鹸からは、アルカリ金属が遊離する。それが脂質と化合すると皮脂石鹸(石鹸カス/スカム)になって、皮膚や被毛に残留するので、ゴワゴワした感じになる。
○アルカリ性の石鹸でシャンプーした後は、クエン酸などの酸性リンスで中和できる。リンス剤は、陽イオンのカチオン(+)が、通常マイナス(-)の電荷をもつ皮膚と被毛に吸着することで、静電気の発生を防ぐ効果もある。
クエン酸は、デンプン質、糖蜜などからつくられる有機酸で、柑橘類の果実の中に多量に含まれている。酸性になりがちな体液をアルカリ性に傾ける健康食品としても利用されている。