●イヌ回虫と駆除


日本のイヌでは、生後2~3ヶ月の子犬はほとんどがイヌ回虫を持っています。イヌ回虫は生後半年から1年までの幼犬にだけ、寄生しています。子犬は生後1、2ヶ月で駆虫をする必要があります。


イヌ回虫の成虫の体長は、雄で約10cm、雌では18cmになります。頭部には、3個の口唇があって、合計5個の乳頭も持っています。また、それぞれの口唇の内側には鋸歯状の歯が数百個も並んでいます。頭部の左右には頚翼と呼ばれる翼状の隆起があります。


子犬が成長して成犬になると、イヌ回虫の成虫はイヌの腸内に棲めなくなり、糞とともに対外に排出されてしまいます。


イヌ回虫に感染している子イヌの糞のなかには、イヌ回虫の卵があります。その形は短楕円形で、長径80~85ミクロン、短径70~75ミクロンの大きさで、顕微鏡で見れば、形態が異なるため、ヒトの回虫の卵と区別することが可能です。


卵は、外界である程度発育して、幼虫包蔵卵になります。子犬がそれを飲み込むと、その卵は仔犬の体内を移動して、小腸内でイヌ回虫の成虫にまで発育します。


イヌ回虫の卵を成犬が飲み込んだ場合、イヌ回虫は、第二期幼虫の段階で発育が止まり、それが成犬の肝、肺、腎、脳、筋肉などに運ばれます。特に筋肉中に多く蓄えられます。


イヌ回虫に感染した成犬が雌犬の場合、妊娠すると、出産直前に、蓄えられた幼虫がいっせいに活動しはじめ、血管内に入ります。おそらく、ホルモンの作用によるものだろうと考えられていますが、血流に入った幼虫は胎盤を通って、子犬に移行します。これを、「胎盤感染」と呼んでいます。また、母乳から子犬に感染することもあります。


子犬が出産されると、幼虫はその体内をすばやく肝臓に移動して、そこからさらに肺やその他の器官を通って、最後に小腸に達します。そして、そこで成虫になり、交尾をして産卵を開始します。


成犬でも子犬でもイヌ回虫に感染しても深刻な障害は起こしませんが、それがヒトに感染した場合には失明などの重篤な症状を起こすことがあるので、要注意です。


犬回虫症の症状


(1)内臓移行型

・発熱、倦怠感、異食症

・好酸球増多症、肝機能異常

・肺炎、皮膚炎

(2)眼移行型

・ぶどう膜炎

・視力障害

・失明

(3)神経型

・しびれ、不全麻痺

(4)潜在型

・アレルギー素因


8歳未満の子どもが感染すると、肝臓が腫れ、微熱、咳、全身の倦怠感などの症状が出て、ごく稀に失明にまで至ることがあるのです。


感染経路として、かつては公園の砂場が上げられていましたが、その後の調査研究では、イヌの回虫卵は、飼い主が犬とキスしたり、口移しで食べものをあげたり、抱擁したりした際に、経口感染する可能性がとても高いことがわかりました。


予防としては、手洗いをきちんとすることがありますが、犬を常に清潔にするように心がけ、室内の掃除をまめにおこなうことも大切です。犬の体毛に付着した虫卵が体毛とともに室内に散布されて、ゴミなどといっしょに人の口に入って、感染することがあるからです。


生レバーを食べて、寄生虫に感染することもあります。


半数以上の犬が何らかの寄生虫にかかっていると報告されています。ちなみに家庭で飼育されている犬の寄生虫で、多い順に並べてみると次のようになります。


1.イヌ鉤虫        49.3%

2.瓜実条虫        39.8%

3.イヌ鞭虫        38.8%

4.イヌ糸状虫       37.8%

5.イヌ回虫        20.7%

6.横川吸虫       15.8%

7.肥頸条虫        6.5%

8.肝吸虫          6.1%

9.ネズミ斜睾吸虫    4.1%

10.マンソン裂頭条虫  3.4%


小型の人気犬種には、ジアルジア、イソスボラ(=コクシジウム)、糞線虫などが寄生していることが多いと言われますが、いずれも駆除がむずかしいものです。


例えば、糞線虫の駆除には、次のような薬剤を投与します。(獣医師の判断による)

「イベルメクチン」 200~300mg/kg、単回、経口投与

「フェンベンダゾール」 10~20mg/kg、3日間、経口投与