犬に尊敬される飼い主になる



私たち人間は、自分のことは棚に上げて、犬には従順であることを望みます。ほとんどの飼い主は、自分で、どうしたら犬と良い関係を築くことができるか、指示に従わせるためにはどんな工夫をしたら良いのかを見つけ出そうとする努力をしません。


犬が困ったことをする、問題行動を起こすという場合、その原因を作っているのは飼い主自身ということも多いのです。



家庭犬として、家族の一員として暮らしていくために必要な「たしなみ」は、次の3つです。


①決まった場所で排泄する


②呼んだら来る


③吠えない、咬まない


(1)排泄のしつけは、とにかく、最初に失敗させないことです。


決まった場所以外では、絶対に排泄をさせないという覚悟で臨みます。そのためには、犬の排泄のリズムをつかみ、排泄前の行動を見逃さないように、よく観察することが大切です。グルグル回ったり、ソワソワし出したら、すかさずトイレに連れて行きます。


(2)犬を呼んだら、必ず飼い主の元に来るようにしつければ、多くの問題が解決できます。


犬が、テーブルの上の食べ物を取ろうとしたら、すかさず「来い!」と命令します。そして、従わなかったら、「ダメ!」と叱ります。


「テーブルの上の食べ物を取ってはいけない」と言っても、犬にはわかりません。でも、自分が知っている命令、「来い!」に従わなかったために叱られれば、犬は叱られたわけを理解するのです。


叱る時は、犬が理解できる範囲でなければなりません。


(3)「そうしない」ことを学ばせる前に、「そうできない」状態を作って、犬に示すのです。


犬に盗み食いのクセをつけないように、日頃から食べ物をテーブルの上に置いたままにしない、食事中にテーブルから犬に人間の食べ物をおすそわけしたりしないという心がけも、大切です。


犬の飛びつき癖を直そうとするときには、「オスワリ」とか「伏せ」など、その犬が知っていることを命じます。それができない犬の場合は、飛びつこうとする前に足でリードを踏むなどして、「できない状態」を作るのです。


いちばん大事なことは、「そうできなかった」結果に過ぎなかったとしても、飛びつかなかったごほうびに、犬をよくほめてあげることなのです。それを何回か繰り返すことで、犬は自発的に飛びつかなくなります。


(4)犬は、「楽しい」か「不快か」のどちらかの感情で理解しています。


犬がやっても良いことと、やってはいけないことを理解するのは、楽しいという感情「快」と、嫌だという感情「不快」のどちらかからです。楽しければ近づき、嫌なことなら避けるようになります。


吠えグセを直す時にも、「快」と「不快」のふたつの矯正法があります。


「快の矯正法」


ピンポーンとチャイムが鳴ったら、「ハウス!」と命じて、ハウスに入ったらごほうびをあげたり、たっぷりほめます。


それが成功するのは、「ハウスをすれば良いことが起きる」という刷り込みができていることです。


ハウスを命じたのに、犬が従わなかったら、叱ります。犬は、「吠えたから叱られた」ことはわからなくても、「ハウスの指示に従わなかったから叱られた」ことは理解します。


「不快の矯正法」


リードをゆるめに持っておいて、犬がチャイムの音を聞いて走り出したら、首にショックがかかるように引きます。


この矯正法では、何度も繰り返すのではなく、一発で決めなければなりません。「音に反応した」、「痛みを感じた」という二つの現象をつなげて記憶させなければ、効果がないからです。


天罰法という矯正法もあります。空き缶に小石を入れたものを用意しておいて、犬が吠えようとした瞬間に、犬の近くに落として大きな音をたててびっくりさせるというものです。


吠えグセのある犬に不快感を与える矯正法として、吠えるたびに犬が嫌いな柑橘系の臭いが自動的に噴射される首輪をつけるというものもあります。


(5)犬に尊敬される飼い主になる


犬には、人の役に立ちたいという使命感はありません。ただ、楽しく遊びたい、楽しませてくれる人と一緒にいたいと考えるだけです。


そして、どっちが楽しいかなと選ぶことはできるので、一緒にいると楽しい、張り合いがある、そういう人と一緒にいたいと思います。


かつては、犬のトレーニングには、恐怖感を与えて支配する方法(ドミナンスコントロール)がとられていましたが、今は、「守られているという安心感」、「指示に従うと楽しいことがある」、そして、「指示に従わないと不快なことがある」ということを組み合わせて教えて行きます。


家庭犬のしつけインストラクターの中には、おやつを与えながらトレーニングすることを勧める人もいますが、犬がおやつが欲しくて従っているのであれば、犬にとってその人は単に「食べものをくれる人」でしかありません。


犬が喜んで従う人は、命令するだけではなく、犬にわからせるための努力ができる人、一緒にいると楽しい人、怖いこと、嫌なことから守ってくれる人、つまり犬に尊敬される人なのです。