●学齢期の子どもとペットのふれあい
1944年にジェイムズ・ボサードが「犬を飼うことの精神衛生」という論文で、「特に子どものいる家庭における、家庭生活とその一員の精神健康についての、犬が演じる重要性」について発表しました。
*犬は愛情のはけ口や話し相手の欲求を満たしてくれる
*犬は個々の必要性に適した愛情を表現する
*犬と人間の愛情は、深く長期にわたる
*犬をケアすることで、特に子どもは、責任感を学ぶ
*子犬を飼うことは子どものトイレット・トレーニングのいいお手本となる
*犬は、性差や性の認識を子どもに教育する援助となりえる
*犬には八つ当たりでき、もし子どもが重要であると感じるならば犬をしつけることで満足感を得られる
*すべての動物や人間や人間でないものが、どんな基本的な仕組みをしているか犬は明らかにする
*犬は他人への接触を手助けできる
現在では、「犬に八つ当たりできる」ことを犬を飼うことの効用とは認めないでしょうが、この論文は、当時の動物福祉団体や飼い主には好評を得ました。
ペットは人間のさまざまな要求に応じ、無償の共感を示すことで、子どもたちに仲間意識や安らぎを提供します。
情緒が不安定な子どもは動物を心の拠りどころにします。非行を働いた青少年は、自分のペットに話しかけることや、寂しかったり退屈なときに動物の話し相手を求める頻度が高いことが分かっています。
ペットの世話をすることで、子どもには相互援助の精神や責任感が育まれます。
アレイスデイル・マクドナルドの研究では、犬を家族に迎えることによって生じる「費用」と「家族への影響」を懸念する親の声が報告されています。
例えば、「犬が死んだり、いなくなった時の影響」、「隣人に迷惑をかける可能性」、「犬がこどもを傷つけたり、逆に犬が子どもに虐待されるおそれ」、「他人のものを壊す可能性」などです。そして、「子ども自身も犬を手に入れた喜びとともに、犬を飼うことのむずかしさを自覚している」というものです。
ペットは、いろいろなプロセスで子どもの精神的な欲求を満たすことができます。
ペットは子どもにとって、エネルギッシュなあそび相手です。一般的に、よく体を動かす子どもは、そうでない子どもよりも、緊張しにくいと言われますが、子どもはペットと遊ぶことで、うっ積したエネルギーを発散できるのです。
*ペットは子どもに安心感を与えてくれます。
人と話したがらないような内気な子どもでも、動物がいることでリラックスして打ち解けるようになります。ペットは子どもが友だちをつくる手助けもしてくれますし、兄弟がいない子どもにとっては、孤独感や退屈をまぎらわせてくれます。
*子どもにとって、家で飼っている犬は、特別な友だち、あるいは仲間です。
子どもは、自分は犬にとても好かれていると考えていて、犬を「自分を評価し、満足させてくれる存在」と感じています。
子どもに限らず、動物とのコミュニケーションは言葉よりも、しぐさや直接的なふれあいで行われます。
人間どうしであれば、うまくいかなくなる懸念もありますが、犬との関係ではそんな不安もなく、子どもが求める身体的なふれあいの欲求を満たすことができるのです。だからこそ、犬は子どもの特別な友だちになり得るし、その友情はいつまでも揺るがないものなのです。
犬との友情関係は、「互いにかけがえのない存在」と「世話をしなければならない責任」という2つの要素から成り立っています。
かけがえのない関係としての表現には、「君っておもしろいね」、「君と一緒にいるのは楽しい」、「君と遊ぶのが好きだ」というもの。責任感を感じはじめたときの表現は、「君の世話はぼくがするよ」「ぼくが守ってあげる」などです。
子どもは、しばしば親からこうあって欲しいとか、こうなるべきだと求められるので、親の考えを押しつけられていると感じることが多いのですが、ペットは子どもに何らかの成果を求めたりせず、子どものあるがままを無条件に受け入れてくれます。
ペットが、自分のことを100%受け入れてくれることで、子どもは自分の価値を感じることができるのです。このような感じは、他の社会的環境からはなかなか得られないものです。
ペットがいることで、家族間のさまざまな感情のもつれや対立が和らげられるので、家庭が良い雰囲気になることも、子どもにとっては好ましいものです。
家族は、それぞれがペットと係りをもつだけではなく、ペットを介して互いに係りをもつことになり、ペットが家族間のコミュニケーションの潤滑油の働きをしてくれるのです。
子どもが犬の世話をきちんとできていたら、それを親が認めてあげることで、子どもは自分に自信を持てるようになります。そして、その自信が、他のことに対しても前向きに取り組める力になるのです。
子どもの時にペットを飼うことは、大人になってから他の人に対して共感する能力、「社会的コミュニケーション力」を養うことになります。動物と共感的にかかわることが、人と上手にかかわりをもてるようになるトレーニングになるからです。
親のネグレクトにあった子どもや、施設でずっと暮らしてきた子どもは、引きこもり、抑うつ、うたぐり深い態度をとりやすいといった傾向がみられます。そのような子どもに対しての心理療法の場面で、犬を介在させることで、心療効果を高めることができることが報告されています。
また、身体に障害のある子どもにとっては、ペットとのふれあいは子どもの楽しみになるとともに、社会的、情緒的な効果をもたらします。